【第1審】~3~
「キャ~!ロブさまぁ♪」
メロディの歓声とともに傍聴席のトーチたちが輝きを増す。
「お待たせベイベーたち!こんな退屈な裁判より、俺の裁判が見たいだろ?」
鳥属性特有の華やかな羽根を翻し、トーチたちを扇動する。
「そう、裁判は最高のショータイムだ!」
完全にメロディの目がハートになっている。
一瞬にして法廷内の視線を独り占めにする才能は、ロブの天性のものだ。
「裁判長!この男はなんなんだ!他人の裁判に勝手に割り込んで来て!」
「検察官のロブ様です。」
おっさんの問いにジュードが答える。
「あんたさ、この屋敷の執事なら順番守れって言ってくれよ。」
ジュードが困惑した様子でいると、
フサリとした尻尾をなびかせて、白いスーツに身を包んだ生真面目そうな男が
ロブの後ろから入って来て言った。
「順番も何も、そもそもあなたの裁判は成立しません。」
「キャ~!ブルーさまぁ♪」
傍聴席のトーチたちがさらに輝きを増す。
ブルーはつかつかとおっさんに詰め寄って言葉を続ける。
「世界中の女性を訴えるですって?」
「ああ、そうだ!」
「罪状は?」
「ざ、罪状? 罪状は……俺の彼女にならない罪!」
「話になりませんね。」
ブルーはメガネの奥でおっさん、いや通りすがりの王子を
キツネ属性特有の切れ長の目で蔑み、アケチに同意を求めた。
「裁判長、こちらの方の訴えは棄却ということでよろしいですね?」
しかし、そこにアケチの姿はなかった。
ジュードの背中の針がわずかにざわめく。これはかなり怒っている証拠だ。
「メロディ。」
「はーい♪」
メロディはコソコソと広間を出て行こうとしている
アケチの首根っこをむんずと捕まえ、ジュードの前に差し出す。
「アケチ様、どこに行かれるおつもりですか?」
「ジュード!お前もわかってるだろう?!嫌なんだよこいらの裁判は!」
そんなアケチにブルーは、弁護士らしく理路整然と言い放った。
「何をおっしゃってるんです?ここは判決を求める者が集う場所。
そうではありませんか?」
「俺の家でもあるの!」
こいつらが来たら、絶対に眠れない。
なぜならこいつらは裁判を盛り上げるための手段を選ばない。
だから審議は必ず脱線し混乱し、
ひどい時には歌い出し踊り出し収集がつかなくなる。
おとぎの国でも1、2を争うほど俺にとっては最悪の弁護士と検察官なのだ。
「さぁ、ブルー。今日こそは決着を付けてやるぞ!」
「望むところだ、ロブ!」
お互いをライバル視しているだけあって、二人は気合十分だった。
ロブは既に右手にマイクを持っている始末。
「とにかく二人とも帰れ!!今すぐ帰れーーっ!!
俺は寝る!俺は今日こそゆっくりたっぷり寝るんだぁ!!」
だだっ子みたいに喚くアケチに、優秀な執事は大人の対応をする。
「アケチ様、皆さまお待ちかねですよ。
ほら、トーチたちが活き活きと輝いています。」
ジュードは傍聴席に座っているのは一人ひとりの傍聴人なのだという。
俺にはただの灯火にしか見えないが、不思議と炎に意思があるように
その存在を感じることはある。しかし!
「トーチよりも俺の話を聞けよ!
嫌なんだよ、ロブとブルーの裁判はいっつも一筋縄じゃいかねーじゃん!」
アケチの言葉にブルーのメガネがキラリと光る。
「当たり前です。僕たちは一日も早く悲願を達成しようと
日々努力し、これこそは!という案件を選んでいるのです。
そこらのチンケな裁判とはわけが違います!」
「失敬な!私のは世の中のすべての女性を訴えるという壮大な裁判なんだぞ!」
おっさんもどうしても裁判したいようで負けじとブルーに言い返している。
だがロブが、そんな王子をしげしげとを見て言った。
「ちょっと待ってくれよ、ベイベー。あんた本当に王子なのか?」
「な、なんだと!?どっからどう見ても王子だろ!」
ふむ。と少し考える素振りを見せ、大きな黒い瞳で王子を見つめる。
それからわざとらしくターンしながら振り返って、
部屋の隅に控えていたメロディに聞いた。
「メロディ、君が思う王子の条件は?」
ふいに問いかけられたメロディは乙女のようにドギマギしながら答えた。
「えっとお~、髪はブロンド、腰に短剣、白馬に乗ってやって来るって感じ?ですぅ♪
まぁでも、そんな王子様はあたしのことなんか振り向いてもくれないんだけど!」
確かにメロディの意見は正しい。それが一般的な王子のイメージだ。
「ロブ、つまりおっさんには王子要素がゼロだと言いたいのか?」
「イエス!アイアム!」
途端に王子がたじろぐ。
「バ、バカを言え。私だって髪は縮れ毛、腰は腰痛、ノリに乗ってやってきてるだろ!」
突然、ジュードの背中の針がさわさわと小さな音を立てて震え出した。
「どうしたジュード?!」
「…す、すみません。 “ノリに乗って”がツボで。続けてください。ぷぷぷ…っ」
ジュードのツボがおかしいのは放っておくことにする。
ロブは端正な顔立ちをわずかに歪めて続けた。
「全然キラキラしてない。王子なのに。」
「うるさい!ゲンジツを見ろ!女性を本当に幸せにできるのは、
イケメンでも金持ちでもない、私みたいな言われなくても
洗濯物をきちんとたたんでクローゼットにしまうことができる男なんだよ!」
そんな言い訳がましいおっさんの言葉に、ブルーが間髪入れずに攻め込む。
「裁判長、もしかして、この男は自分を王子と偽り、
女性たちを騙そうとしているのではありませんか?」
「な、何を言い出すんだよお前は!」
「“詐欺罪”の疑いがあるってことだよ、ベイベー。」
ロブとブルーに詰め寄られている王子は、完全に目が泳いでいた。
海では泳げないらしいけど、目は相当泳ぎまくってるよおっさん…。
ああ、面倒なことになって来た。だから嫌なんだこいつらの裁判は。
この場を収めるのが俺の務めか…。