【第1審】~2~
バタバタと廊下を走る音がして、大広間の扉が開く。
「ジュード様ぁ~、本日一組目のお客様がいらっしゃいましたぁ~♪」
フワフワのチュールスカートに、メイドエプロン。
背中には透き通った羽根を付けたメロディが現れた。
ちなみに、こいつの羽根はおとぎの国の住人たちと違って本物じゃない。
驚安の伝道師の店で買ったらしい。
「アケチ様ぁ♪今日もイケメンですね。キャハッ♪」
キャハッ♪じゃねぇ…。メロディ…お前超ゴツくない?そう思ってんの俺だけ?
なぜこいつを屋敷のメイドとして雇ったのか問いただしてみたい。
もっと他にいなかったのか? なぁ、ジュードよ…。
しかも自分のことを“音の妖精”だと言ってはばからない。
妖精?妖怪じゃなくて?
「お客様をお通ししてもよろしいですかぁ?」
やわらかくカールしたピンクの髪で小首をかしげるメロディ。
小首…小首かなぁ…俺よりガッシリしてても小首かなぁ…。
「もちろんですよ、メロディ。」
「いや、ちょっと待て!ジュード!今日は誰も入れるなって言ったよな!」
「言いましたね。」
ジュードは女なら誰もがとろけそうなとびきり甘い笑顔で微笑みかけながら、
俺のボーダー柄のシャツを脱がしにかかる。
「聞けー!俺の話を聞けー!」
「メロディ、法衣を。」
「はぁ~い♪かしこまりっ♪」
萌え声とは裏腹にすごい腕力でガッチリと身体を掴まれ、
あっという間に法衣を着せられる。
「やめろ!ちょっ…お前わかってんのか?!」
「わかってますよぉ。自分がそんなにイケてないことも、
年齢的にこのキャラきついなってことも全部わかってますぅ。」
「あ…わかってんだ。」
しおらしくそう言うメロディに俺はちょっと安心した。
…って違うよ!
「俺は裁判なんかやりたくねーんだ!絶対やらねぇからな!!」
抵抗している俺の後ろで不機嫌な声が聞こえた。
「おい!どういうことだよ!裁判やらないって!」
ふと見ると、そこには一人のおっさんが立っていた。
おっさんは一応頭には王冠らしきものをかぶっており、
ぺらっぺらな安っぽいマントを羽織ってはいる。
でも、おっさんはおっさんなのだ。
ジュードがすぐに執事スマイルで対応する。
「ようこそ、幻火の館へ。
あれ?お客様…どこかでお会いしたことが…?」
「そんなわけないだろ。新手のナンパか!」
「いえ、失礼いたしました。お客様お名前をお伺いしても?」
「通りすがりの王子です。(ビシっ!)」
自分で王子と言い張るおっさん。
俺は即座にめんどくさい案件であることを悟る。
「俺は寝る!今宵、裁判はやらない!」
ジュードの目がまたスッと細くなる。
「アケチ様、さっさと終わらせてさっさと眠ればいいのでは?」
「いやいやいや、さっさとって何?ちゃんとやって。」
おっさんが文句を言う。
「ゴネているとその分、睡眠時間が削られますよ?」
冷ややかなジュードの声。
結局俺に選択肢などないのだ。くそっ!腹立たしい。
どさりと裁判長席に座る。
「最初からそうなさればいいのに。」
ジュードは執事らしい顔つきで王子と名乗るおっさんに向き直った。
「それでは、通りすがりの王子様。
本日は被害者側ということでよろしいですか?」
「おう!是が非でも訴えたい相手がいる。」
「そのお相手とは?」
「この世のすべての女性たちだぁあ!」
今、本を閉じようとした君。君は正しい。だが、あと少しだけ我慢して欲しい。
自称王子は、意気揚々と申し立てを始めている。
「え~、わたくしは王子なんですけれども、
今まで一度も女性とお付き合いをしたことがございません!
このままでは王子ではなく魔法使いになってしまう!
この間だって、高~い塔の上に閉じ込められているという
お姫様を助けようと命がけでその塔をのぼったんですよ!
なのに、私の顔を見た途端に「不法侵入で通報します!」って騒がれたあげく、
突き落されそうになったんだ!危うく死ぬとこだったんだぞ!
それから、海の底にいるっていう人魚姫のところに命がけで泳いで…
いやそもそも私は泳げないので、水に顔をつけるだけで命がけ!
と言っても過言ではないわけですが…」
バタン!と急に大きな音がして広間の扉が開けられる。
鮮やかなグリーンの古風な中国風衣服に身を包んだ見目麗しい男が入って来た。
「もうその辺にしてくれよ、ベイベー。」