【第1審】~9~
今度はロブが勝ち誇った表情になる。
歓声をあびるために美しい羽根をわざとらしく広げた。
だがブルーはいたって冷静に言う。
「ロブ、じゃあ聞きましょう!なぜ母親がおばあさんを殺す必要があるんです?」
「それはわからん。」
あっけらかんと答える。
「はぁ?君はいつもそうだ!最後の最後がいい加減なんだよ!
だいたい遠足のときだって、君がおやつはいくら持って行ってもいいというから
山ほど持って行ったけど、結局規則違反で僕は先生に叱られたんだぞ。」
「あれは、お前が俺よりカッコいいやつなんていくらでもいるなんて言うから
わざとやったんだ。」
「わざとだったのかよ!」
「でも、先生に怒られてメソメソ泣いてたお前を家まで…」
「わー!!!泣いてない!断じて泣いてない!」
「いや、お前泣きむs…」
「うるさい!お前だって暗所恐怖症だろ!
『ああ~、暗いの怖い~何にも見えない~』
今すぐこの屋敷のトーチ、全部消してやろうか! ふーっ!ふーっ!」
「やめろ!俺は鳥目なだけだ!だけど、お前の泣き虫は…」
「僕は断じて泣き虫などではない!」
「え?でもさ、俺がトカゲ捕まえてきてシッポちょん切って遊んでたら
『ロブくん、そんなひどいことやめてよぉ~わぁ~ん』って大泣きしてたろ。」
「それは僕がまだ7歳のときの話じゃないか!!」
そうなのだ。こいつらは幼馴染にしてライバルなのだ。
いつものことだという感じで、ジュードが紅茶を注いでくれる。
一休みしろという意味なのだろう。
俺はため息をつきつつ一息入れた。
「バーカバーカ!ロブのバーカ!」
「バカって言った方がバカなんですぅ~」
紅茶を一口飲んだところでジュードがパンパン!と手を鳴らした。
「はいはい、お二人ともそこまで。ここは神聖な裁きの場ですよ。
裁判を続けてください!」
我に返り、乱れたスーツを整えてブルーがコホンと咳払いをする。
「と・に・か・く、母親がおばあさんを殺す理由が明確ではありません!」
「だが、赤ずきんが嘘をつく理由にはなるぜベイベー。
赤ずきんは、母親の犯行だとわかっていた。
だからオオカミが犯人だと嘘の証言で母親を守ろうとした!
違いますか?赤ずきん!」
赤ずきんは咄嗟にロブから目を逸らし、黙り込んでしまった。
その様子をオオカミが見つめる。
すぐさまブルーが答えた。
「赤ずきんは、黙秘します!」
「またかよ!つまんねぇな!赤ずきんに喋らせろよ!」
「おっさんは、黙れ!」
しかし、今回王子は黙らなかった。
「裁判ってーのはよ、ピンポンのラリーみたいに
ポンポンやり合うのがおもしろいんだよ。守り一辺倒で流れを止めるな!」
「ただのおっさんが口を挟むなよ!」
俺の言葉にまさかのジュードの天然砲が炸裂する。
「ただのおっさんではありません!王子です!」
「王子です!(ドヤっ!)」
なぜ俺はおっさんのドヤ顔を見せられなければならないのか。寝不足なのに!
「お前ら二人ともラプンツェルの塔にぶち込むぞ!」
思わず俺が声を荒げたその時、ブルーが思いもかけないことを口にした。
「あなたは…? あなた、そんなおかしな恰好をしていますが……
もしかして…ドロー様じゃありませんか?」
“ドロー様”?
どこかで聞いたことがある名前だと、脳内の情報が高速でぐるぐる回る。
「あ?バレちゃった?」
今度はおっさんのテヘペロ顔を見せられることになる。寝不足なのに!
「やはり、そうでしたか。」
ジュードが心底納得したように言った。
「え?誰?」
「ドロー様と言えば、勝ち星は少ないですが必ず引き分けに持ち込む
“無敗の男”と呼ばれた方で、Killerの中の伝説の弁護人です。」
悪びれもせずおっさん…もといドローはヘラヘラと笑っている。
こいつが伝説?
マジかよ、伝説に謝れよ。
しかし、ジュードはすぐさま険しい顔になった。
「困りましたね。あなたはもうKillerではないはずだ。」
言われてみれば、ドローにはKillerの特徴である“ケモノ”の部分…
耳や毛や尻尾がない。人間そのものだ。
「僕もそう聞きました。ドロー様は異例の早さで“伽”を満足させ、
人間の姿に戻ったと。」
ブルーも困惑した様子だ。
ジュードが射るような視線でドローを見おろす。
「ドロー様、Killerを卒業された方は“ゲンジツ”の世界に行かなくては
ならないはずなのに、なぜまだこちらに留まっていらっしゃるんです?」
場合によっては処罰も辞さないというジュードの質問にも、
ドローは一向に臆することはない。
「いや~、じつは腹違いの弟がいてさ、
その弟が裁判しに来るかもって聞いたから。ここにいれば会えるかなぁって。」
かなり胡散臭い。なんだその理由。
ますますジュードの言葉が厳しいものになる。
「それでどうでもいいことで訴え出て、
この幻火の館に入り込んだというわけですね。呆れた方だ。」
「まぁまぁまぁ。いいじゃないの。弟に会えたら帰るからさ。」
「いつ来るんだよ、そいつは。」
「さぁ?」
「弟さんの特徴は?」
「さぁ?」
さすが元弁護士だけあって、ドローは嘘か本当かわからないことを
ペラペラと話しだした。
腹違いの兄弟が13人いて会ったことがないこと、
一番下の弟でどこかにもらわれて行ったこと、
だから顔もわからないし、名前すら定かではないという。
屋敷を管理する立場としてジュードは冷静に対応する。
「そんなことで、どうやって自分の弟だと判断するおつもりなんです?」
「まぁ、顔見りゃわかるんじゃない?
あれ?裁判長、よく見たら顔似てない?眉毛のはえぎわとか!」
「ふざけんなよ!出てけ!上告なんか今すぐ棄却だ!」
アケチの言葉にひるむ様子もなく、ドローはとんでもないことを言い出した。
「では今から私がこの裁判をおもしろくしてやる!もっと民衆の心を掴め!
現在劣勢にあるオオカミ側に私がつく!」
ロブとおっさんが、がっつりと握手を交わす。
これ以上裁判をややこしくされるのはごめんだ!
「メロディ、部外者をつまみ出せ!」
「アケチ様…それはムリですぅ。だって、傍聴席を見てください。」
トーチたちの炎が期待で大きく揺らめいているのがわかる。
これはつまり……




