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おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
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【第1審】~プロロゴス~

挿絵(By みてみん)




◇ プロロゴス ◇



「それでは、判決を言い渡す。」


俺の記憶はここから始まっている。

これより前の記憶は無い。

それは文字通り“無い”のだ。

ただ、どういうわけだかこの時の記憶も(もや)がかかったように

所どころ判然としない。


覚えているのは、黒い法衣に身を包んだ裁判官が、

ひどく冷たい目をして法壇の上から俺を見下ろしていたこと。

傍聴席(ぼうちょうせき)には無数のロウソクの小さな炎がチラチラと瞬いていた。

まるで奇異な目で犯罪者を見つめる観衆のように。

あの時の俺は何を思っていたのだろう。

何か大きなものに抗おうとしていたことだけは確かだった。

裁判官が深く息を吸い、法廷内に響き渡る声でこう告げた。


「被告人アケチ、有罪。」


“アケチ” それが俺の名前だ。

そうだ、あの時俺はまだ人としての心を持っていた。


裁判官の言葉は続く。

「被告人が犯した罪は重く許しがたいものである。よってただちに禁固刑に処し…」


「違う!俺は何もやってない!やってないんだ!」


審議の間、何度も訴え続けた言葉をもう一度言う。

しかし、裁判官はやれやれといった風に首を振っただけだった。

「アケチよ、判決は下された。

 お前は人の心を取り上げられ、ケモノになる呪いをかけられるのだ。」

すぐさま抵抗しようとしたその時、


「…ふふふ。」


法廷には似つかわしくない、無邪気で嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。

その声は法廷のどこかというよりは、

もっと何か()()()から聞こえたと言った方が正しいかも知れない。

それだけは今でもはっきりと覚えている。


途端に目の前が真っ暗になり、体中の毛穴がぞわりとなる。

みるみるうちに節々が張り裂けんばかりに痛み出し、

自分の身体が変化していくのがわかった。

気が付くと指先は退化し、ケモノのような毛が全身を覆い、

人の心が失われていく。

屈強な男たちが俺の両脇を抑え込み、金属でできた首輪をはめ、

ガチャリと鍵をかけた。

すでに二本足で歩くことが難しくなる。


「俺は無実だ!」


そう叫んだつもりが、言葉を成さずケモノが吠えた声が空しく響いただけだった。

紫色のタッセルのついた古びた鍵を裁判官が高く掲げた。


「被告人の“伽相手(とぎあいて)”を希望するものは追って申し出ることとし…」


裁判官の重々しい言葉は続いているようだ。だけど、俺の意識はもう…。

バタンとひときわ大きな音を立てて扉が閉まり、

救いようのないほどの漆黒の闇が訪れた。



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