第7話 始まりの街
◇ ◇ ◇
「へぇ、てことはあんたこの国出身者じゃないのか」
「あぁ、一応日本ていう国から来たんだけど、どうせ分からないだろ?」
「えぇ、聞いたことありませんねニホンだなんて。しかもあの剣技・・・・・・貴方一体何者なんですかい?」
「いいじゃないそんなこと!それよりさっきは助けてくれてありがとう!!もう少ししたらギルドに着くから、その時また改めてお礼をさせてもらうわね。」
軽いおしゃべりをしながら俺たちが向かっているのは、駆け出しの冒険者が集まる街、《テンデル》王都には劣るものの、豊かな自然と広大な土地に恵まれた大都市である。
「お、見えてきたぞ。あそこがこの街のギルドだ」
見るとひときわ大きな酒場のような建物が見えた。
中に入ると様々な武器を持った冒険者たちがいる。
ゲームの中でも見た事がある、THE・ギルドという感じの場所だった。
「あ!ロイさん!無事だったんですね!?魔王軍との戦いで行方が分からなくなったと聞いて心配してたんですよ!!」
「心配させて悪かったな、でもこの子のおかげで助かったんだ。こう見えて凄腕の持ち主なんだぜ?」
「ええっと・・・・・・この子が?失礼ですがギルドカードをお見せしてもら出てもいいでしょうか?」
「ギルドカード?そんなの持ってないけど」
おそらくゲーム序盤でもらうアレのことなのだろうが、こっちにきて数時間しか経っていない俺が持っているはずなどない。
「もしかしてギルドカード持ってないの?」
「あぁ、あれってないと困るものなのか?」
「まあ、必ずってわけじゃないが、モンスターを倒したり依頼を受けるにはギルドに所属している必要があるんだ。」
(なるほど、この世界でもギルドは俺の知っているものと同じ様な期間の様だ)
「なるほど、ちなみにそのギルドカードって今から作れるものなのか?」
「はい、少々時間はかかりますが魔力の測定や年齢などの確認を行った後はこの機械で自動で作成してくれます。」
そう言って見せてくれたのは大きめの地球儀の様な道具。
「ではよろしくお願いします」
「はい、ではここに手を置いてください。鑑定結果が出るまでは1時間程かかりますのでゆっくりとお過ごしください。」
するとミラが俺の肩を叩きこう言ってきた。
「ねえねえ、お風呂に行かない?さっきの戦いで汚れちゃってるし時間つぶしも兼ねてさ!」
そう言われて自分の体を見ると確かに汚れている。
(そうだな、殺された時の血の匂いも取りたいし丁度いいか、にしても俺、こんなに筋肉なかったんだな・・・・)
いや、気にしない、気にはしていないが男としてちょっとショックだった。
「そうしたいのは山々なんだけどあいにく持ち合わせがなくてね、ギルドの人に水道を借りて洗うことにするよ」
そう言うとミラはなぜか大慌てで
「ダメだよ!!なに言ってるの!?外でだなんてそんな・・・・・みんなに見られちゃうよ?」
「え?別に俺は気にしないけど・・・・」
「いいから!私が気にするの!!お金ならさっきのお礼も兼ねて私たちが出すから!!」
「え、いいのか?ならお言葉に甘えさせてもらおうかな」
(まあ、元はと言えば俺が突っ走ったせいで撲殺熊を連れてきたわけだけど・・・・・・人の善意は受け取っておくものだ)
こうして4人で銭湯へと向かったわけだが、そこでまた新たなる問題が発生したのだった。
◇ ◇ ◇
銭湯に着き、俺が男湯へと足を運んだ途端ミラが叫んだ。
「待って!そっちは男湯じゃない!!貴女はこっちでしょ!?」
「え?何言ってるんだ?男は男湯に入るに決まってるだろ?女湯に入る男なんて、日本だったら即通報だぞ」
「いや、あんたこそ何言ってるんだ?その姿で言われても説得力ないぞ?」
「え?」
そう言って銭湯前の噴水の水を見て驚愕する。
「なんじゃこれは!?」
そこに写っていたのはなぜ気づかなかったのかという様な見事な長い銀髪に碧眼の少女。いや、少女というより美少年?
とにかく日本にいた頃の俺とは全くの別人がそこにいた。
「な、なっ」
「大丈夫か?初めに出会った時と撲殺熊を倒した時の様子が余りにも違いすぎて驚いたが、もしかして記憶が無いのか?とりあえず今はお湯に浸かってゆっくり休むといい。難しい話は後にしよう。」
「あ、あぁ・・・・・・・」
「まあまあ、とりあえずいこ?此処では話しにくいこともあるだろうし。私で良ければ相談に乗るから」
混乱している俺は、ミラが女湯へと俺を連れて行っている事に気づくこと無く、導かれるままその敷居をまたぐことになった。
◇ ◇ ◇
「んんー、やっぱり仕事終わりの温泉は最高だね!!
疲れが全部取れちゃう感じだよ!!
そう言えばまだ名前聞いてなかったっけ?良ければ名前教えてほしいな」
「風間・・・・・・リョウです・・・・・・」
「リョウちゃんかあー、やっぱりここら辺では聞かない名前だね。日本では同じ名前の人多いの?」
どうだろう、男性の名前としてなら多いが女性の名前としてリョウというのは珍しい方だろう。
「いや、日本でも少ない方だったよ」
俺は話を合わせるために女性目線で答えた。
「そうなんだ、でもリョウってなんか強そうでいい名前!さっき助けてくれた貴女にはぴったりの名前ね!」
そう言って微笑むミラに俺は思わずテレてしまう。
「大丈夫?顔が赤いけど・・・・・具合悪いようだったらもうあがろっか?」
そう言ってミラは立ち上がり一糸まとわぬ姿でこちらに寄ってくる。
その姿は神話に出てくる女神のようで美しく・・・・
「う、うわぁ」
「ちょ、ちょっとどこ行くの!?」
俺は逃げ出した。
◇ ◇ ◇
脱衣所に出てふと思った。俺の俺はどうしているのかと・・・・・・
「ハァ・・・・」
恐る恐る確認してため息をつく
やはりというかなんというか、そこには何も無く無が広がっていた。驚くことにその変わりはなく、本当に無だった。
『貴方ノ疑問ニオ答エシマス。貴方ヲ蘇生スル際、私ノ力ダケデハ魂ノ保存ハデキテモ肉体ノ修復ハ行エマセンデシタ。ナノデ周囲ノ〈魔粒子〉』ト自我ヲモタナイ精霊ヲ融合シ新タナ肉体ヲ生成シタノデス。
ヨッテ貴方ハ半精霊トナッタタメ性別トイウ概念ガ消失シマシタ』
なるほど・・・・・理解はできたがやはり納得はできない。出来ないがこうなっている以上仕方がないわけで、
蘇生してもらったので文句を言う必要も無い。
しかし1つだけ疑問が残る。なぜ彼らは俺の姿を見て俺だとわかったのだろう?外見が違うなら俺だと気づくことは出来ないはずだが・・・・・・・
『ソレハ私ガコノ世界ノ書キ変エヲ行ナイ解決シマシタ。』
(世界の書き換え!?そんなことわざわざする必要あったのか?精々俺が説明するのがめんどくさくなったりするだけだろ?)
『イイエ、ソレハ大キナ誤リデス。一度起コッタ事象ガモウ一度繰リ返サレル場合、ソノ世界ニハ多大ナダメージガ生ジマス。ソレハ星1ツヲ崩壊サセル規模ノモノデス。ヨッテ世界ノ書キ変エヲ行イマシタ。』
(なるほど、考えてみれば人生のやり直しなんてとんでもないことを易々と行えるわけがない。)
「ありがとうニケ、どうやらお前には助けて貰ったようだな。」
そんな話を頭の中で行なっているところにミラがやってきた。
「ちょっとー、なんで急に出て行ったの?」
「あぁ、それはすまなかったな。とにかく自分の中で色々整理できたからとりあえず落ち着くことはできたよ、ありがとう」
「そ、そう・・・・・それならよかった」
ミラは嬉しそうにはにかんだ。
「お、出てきたみたいだ」
「あー、あっし待ちくたびれたでやんすよ。女性はお風呂が長いですからねえ」
「ごめんごめん、でもそのおかげでリョウちゃんの悩みも解決したみたいだし大目に見てちょうだい」
「そうか、それはよかった。
では改めて、俺はロイだ、一応このパーティのリーダーだ。こっちはブレッド、一番年上だから頼りにしてやってくれ」
「よろしくでやんす」
「あぁ、よろしく」
そうして俺たちはギルドへと向かっていくのであった。




