第6話 反撃
体は自然に動いていた。
分かっている。この中で一番弱いのは俺である。
なぜ動いたのか、それは分からない。
出会って間もない彼らに愛着が湧いたのか、それも分からない。ただ、俺の体はいつの間にか動いていたのだ。
(あーあ、何やってんだろ俺。ゲームで強いからって現実でも強いわけじゃないのに・・・・・。
ブレッドは助かるかな、せっかく助けに来たのに2人とも死にましたじゃ笑えない。)
近くでロイとミラの声が聞こえる。
(彼らは逃げきれるだろうか、もし全員死ぬことになるなら、言う事を聞かなかった俺のせいだ。
神様がいるのなら彼らだけでも逃して欲しい。)
しかし無情にも時は流れ、撲殺熊の腕が目の前に迫った。
その時
『〈戦闘状態〉二移行シマスカ?
YES / NO』
(《戦闘状態》?よく分からないが死ぬ直前までゲームっぽいワードが浮かぶものだと我ながら呆れる。)
しかし、この状況がもし変わるのならばと俺は言う。
「YES」
その時再び俺の視界は黒く染まり、
次の瞬間、俺はパソコンが置かれたあの部屋に戻っていた。
画面には死の間際の状態の俺とブレッド、しかし先ほどと違うのは、画面には<PAUSE>の文字。
頭の中で無機質な声が響く
『ワタシハ《ニケ》コノセカイノ〈観察者〉ヲ任サレテイル者デス』
『貴方ハ一度死ニマシタ、ヨッテワタシノ力ヲ与エ、
貴方ヲ蘇生サセタノデス』
「ここは俺の部屋なのか?」
『YES、シカシ厳密ニハ貴方ノ部屋ノ一部ト私ノ
《固有空間》を〈同調〉サセタ場所デス』
『直、後0.02秒デ撲殺熊ノ手ニヨリ貴方ハ死亡シマス。
攻撃ヲ回避スルニハ<PAUZE>画面ヲ閉ジ・・・・』
「いやいい、その後は分かっている。あいつを殺せばいいんだろ?」
「・・・・・・流石マスター・・・ソノ通リデス」
俺はマスターという言葉に引っかかりながらも自分のやるべき事をなす為、今一度コントローラーを手にとった。
一瞬の暗転の後、目の前には巨大な腕。
先ほどまでの俺ならなすすべなくここで死んでいただろう。
しかし今は違う。
ギイィィン!!
「「え?」」
俺の手には鋭い光沢を放つ一振りの剣、返す一撃で撲殺熊の腕を切り落とす。
「ガアァァァ!?」
撲殺熊は驚愕する。自らの支配する領域で、己より強い存在に出会った事。そして何より先ほどまで獲物だった相手が自分を狩るものとなっていたことに。
撲殺熊は王者としての尊厳など捨て、逃走を試みる。
その巨体に見合わぬ速度で駆け出すが、それは意味をなさない。
「遅いんだよ・・・・・」
そう言うと同時に俺は撲殺熊の喉元を切り裂く。
「ガフッ」
撲殺熊は小さく吠え、など起き上がることはなかった。
「大丈夫か?」
「え? あぁ、はい」
ブレッドに手を差し出し起き上がらせる。
「こりゃあ一体どう言う事だ・・・・・」
ロイとミラは目の前で起きたことに動揺を隠せず呟く。
「話は後でいいか?それより腹が減ったんだ。さっき街とか言ってたよな?案内してくれよ・・・・・」
「え?あぁ、それもそうだな」
ロイは驚きながらも、気が抜けたように笑った。




