第15話 魔眼
(何だ‥‥‥!?急に首元が光っ‥‥‥!!)
一瞬何が起こったのかわからなかった。強烈な光に俺は目を閉じそうになる。
「ば‥‥‥馬鹿なっ!あれは‥‥‥〈マイヤーズの魔眼〉だとっ!?」
アルバーンが大きな声で喚く。
確かに、よく見ると光ってるのは俺自身ではなく、教授からもらった奇妙な魔法道具だった。
「ナギ‥‥‥まさかあなたは‥‥‥!」
エレナは驚いたように話す。だがその顔からは青ざめは消え、むしろ希望に満ち溢れたような感じがした。
カァァァァァッ!!!
光はどんどん強くなり、ついには議場全体を飲み込んだ。もはやだれも目を開けていられない。
カラァン!
ふと、何か金属質のものが床に落ちるのが聞こえた。それと同時に、俺は体の自由を取り戻す。
(これは‥‥‥さっきつけられたリングが外れたのか‥‥‥?)
エレナが外してくれたのだろうか?そんな規則に違反してそうな行為を彼女がとるとは思えない。
じゃあ賢者が?彼らは中立みたいだから、そんなはずはない。
(いや‥‥‥一人だけいる!)
俺がその考えに思い至ったとき、強烈な閃光が収まった。いつの間にか首の魔道具は外れ、光球となって宙に浮かんでいる。
「マスター。アナタノ魔力ト、〈マイヤーズの魔眼〉ヲ少シ使ワセテイタダキマシタ。」
「やっぱりお前だったか‥‥‥。ありがとな!」
俺の予想通りだ。助けてくれたのはニケだった。
「私ノマスターニ手荒ナ真似ヲスルノハヤメテ頂キタイ。『ニケ』ノ名ニオイテ、公正ナ評議ヲスルノデハナカッタノカ?」
「〈叡智の樹〉のもとに浮かぶ光球の伝説‥‥‥間違いない、この声はニケ様だ!!」
「そんな馬鹿な!!〈観察者〉があんなネズミごときに味方するなど‥‥‥!!」
エレナが目を輝かせる一方で、アルバーンはただうろたえている。どうやら、ニケはここでは何か特別な存在のようだ。
「ニケよ!!あなたは代々聖騎士団長に加護を与えるはずなのになぜ‥‥‥?!」
「私ガ加護ヲ与エルノハ聖騎士団長デハアリマセン。私ハ、真ニコノ国ヲ守ル存在ニ加護ヲ与エタダケデス」
「そんなはずはない!私こそが!この世で一等!!ユーゼント王国を憂う者だぁ!!!」
そう言って、アルバーンは剣を抜き、俺に斬りかかってきた。
(まずい!〈戦闘状態〉を起動してない!このままじゃ‥‥‥!!)
殺されてしまう。俺は思わず目を瞑った。
ガギィン!!!
鈍い音が議場に響く。
‥‥‥だが、いつまでたっても斬られた感触はない。
恐る恐る目を開けると、なんと光の膜がアルバーンの剣を防いでいた。
「議場デノ抜刀ハ禁止サレテイルハズデハ?聖騎士団長」
「ぐっ‥‥‥!!」
次の瞬間、アルバーンの剣は光の粒となって、粉々にはじけ飛んだ。
「ニケ‥‥‥お前、俺を助けて力を失ったはずじゃなかったのか?」
「ココニハ私ノ根源デアル〈叡智の樹〉ト、真理ヲ具現化スル〈マイヤーズの魔眼〉ガ揃ッテイルノデ、一時的ニ物体ニ干渉デキルノデス。長クハ続キマセンガ」
よく分からないが、どうやら俺が助かったのはとてつもない幸運のおかげのようだ。全く、この世界に来てから綱渡りばかりだ。
「賢者達ヨ。コノ者ハコノ国ヲ救ウ存在トナルデアロウ。開放スルガヨイ‥‥‥」
言い終えると、ニケは透明になりながら消えていった。
「ナギ‥‥‥。あなたがニケ様の加護を受けているなんて‥‥‥」
「なあ、エレナ。ニケってこの国の何なんだ?」
「ニケ様は〈叡智の樹〉と並ぶこの国の二大伝説です。私も初めてみましたが‥‥‥ナギ、あなたは本当にすごかったんですね!」
(今までタメ口だったがけど‥‥‥すごいやつに助けてもらってたんだな‥‥‥)
「さあ、賢者様。ご判断を」
エレナがそう言うと、賢者たちは相談するそぶりを少しも見せずに判決を言い渡そうとする。結果が見えているからであろう。
何はともあれ、これで賢者たちも納得してくれるであろう。今度こそ自由だ‥‥‥
「判決。ナギを‥‥‥」
その時、俺は気づいてしまった。アルバーンが、不敵な笑みを浮かべているのに。
「‥‥‥死刑に処す」