表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

第10話 不意打ち

 俺が瞬きをした一瞬の間に、<異形(ミュータント)>の胴体は真っ二つになっていた。

 体液が周囲に飛び散る。生命力が強いのか、それは斬られた後も地面をのたうち回り続けていた。


「ギィィィィィ!!!」


 そんな奇声とともに、一匹の<異形(ミュータント)>がどす黒い液体をエレナに吐きかけた。だが、それは一滴たりともエレナに命中することはない。ただ地面の草を溶かすだけの結果に終わってしまった。


 その間にもエレナは剣をふるい続ける。すでに数十体は斬ったはずなのに、疲れるそぶりは全く見せない。

 それどころか、その表情は一層険しくなり、それに合わせて剣の勢いもより強くなっていた。


(すごい‥‥‥!なんであんなに速く動けるんだ!?)


 もはや人間の動きとは思えなかった。目で追うのすら困難だ。


「この‥‥‥忌々しい‥‥‥<異形(ミュータント)>め!」


 血の雨が降り注ぐ中、かすかにそんな声が聞こえた。


             ◇      ◇      ◇


 結局、エレナは三分足らずで<異形(ミュータント)>の群れをせん滅させてしまった。辺りにはおびただしい数の死骸が散乱し、胸がむかつくような死臭が立ち込める。


「ふぅ‥‥‥。終わりましたよ」


 エレナは平然とした様子で俺にそう伝えた。その姿は戦う前と全く変わらず、返り血の一滴も浴びていなかった。


「さぁ、では行きましょうか。<異形(ミュータント)>の毒液で足元がぬかるんでいるので気を付けてください」


「ああ‥‥‥ありがとう」


 まだあっけにとられてる俺をよそに、エレナはさっさと歩き始めた。慌てて俺もそれに続く。


(にしても‥‥‥ここまで強いとは思っていなかったな‥‥‥)


 そう思い、俺はさっきいたところを振り返った。とても女性一人がこれをやったとは思えない。この世界では、見た目だけで強さを判断してはいけないということか。

 しかし。


(妙だな‥‥‥?)


死骸を見ていると、どうも引っかかることがあった。

 先ほどまで切断されてなおあれだけのたうち回っていた<異形(ミュータント)>が、今では全く動いていない。


(死んだのか‥‥‥?)


 いや、違う。

 最初に斬られた奴ですら戦闘が終わるころまで跳ね回っていた。だが、今はすべての<異形(ミュータント)>を斬ってから一分もたっていない。

 ということは‥‥‥


「ギ‥‥‥ィィ‥‥‥!」


 最後の力を振り絞ってか、一匹の<異形(ミュータント)>が毒液を噴射した。それは放物線をかきながらエレナの元へ向かってゆく。しかし、エレナは後ろを向いているからかそれに全く気付いていない。


(やばい!このままじゃ‥‥‥!)


 叫んでエレナに気付かせるか?いや、そんな時間はもう残っていない。

 俺の服をうまく使えば防げるか?だめだ、とても布数枚でどうにかできる量とは思えない‥‥‥。

 いい策など何一つ思い浮かばなかった。

 だが、その時‥‥‥


『私ヲ‥‥‥使ッテクダサイ‥‥‥』


 頭の中に直接声が響いてくる。間違いない。この声は‥‥‥

 ニケだ。


『マスター。今コソ<戦闘状態(バトルモード)>ヲ‥‥‥』


そうか、その力を使えば‥‥‥!


「<戦闘状態(バトルモード)>移行!!」


そう叫ぶと同時に体の内から力が溢れてきた。


(思った通りだ、これならいける!)


 地面を蹴ると、周囲に大きな亀裂が走った。俺は毒液に向かって一直線に跳躍する。


「おおぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は雄叫びを上げて剣を振るった。そこから風を切る音とともに、すさまじい風圧が発生する。


ビュオッ!!!


次の瞬間、毒液はすっかり霧散してしまった。その霧すらも風で押し流されてゆく。


「ギ‥‥‥イィィィィィィイ!!!」


すると、さっきまで死んだふりをしていた<異形(ミュータント)>が一斉に動き出した。今度は俺を狙って口を開き、身体を膨張させる。

 だが。


ドドドドドッ!!!


 素早くエレナが、すべての<異形(ミュータント)>を切り裂いた。


「すみません‥‥‥護衛でありながら、あなたを戦わせてしまうとは‥‥‥」


エレナが悔しそうな顔で俺に謝った。


「いや、何も謝ることはないだろ。怪我がないならそれが一番だ」


「そうですね‥‥‥ありがとう、助けてくれて」


 その時初めて、エレナは俺に笑顔を見せてくれた。その顔は、ちょっと赤らんで照れくさがっているようにも見えたが、とても美しかった。


(‥‥‥やっぱり、根はいいやつなのかもしれないな‥‥‥)


俺は心の中でそうつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ