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第9話 灰原

ドアを開けると、なんと、そこには美しい女性が立っていた。


「あなたがナギさんですね?」


ロングの金髪の彼女は、そう俺に話しかけた。


「はい。エレナさん、これからよろしく」


まさか監視官がこれほどの美人だとは思っていなかったので、俺はすっかり舞い上がってしまう。

が、


「気安く話しかけないでください。あくまで私は監視、あなたは半分囚人のような立場にあるということを忘れないように」


このように一蹴されてしまった。とりつく島もない。

どうやら、このエレナとかいう人は顔はいいが性格が相当きついようだ。全く、これから大変な生活になりそうだ。


「早速ですが、あなたには〈灰原(グレイ・フィールド)〉に向かってもらいます。私は早急にあなたがどれ程の脅威となるのか判定しなければいけないので」


「おい、ちょっと待てよ!そんな理不じ‥‥‥」


そこまで言いかけてから、俺の口は一切動かなくなってしまった。

いや、口だけではない。爪先から視線に至るまで、身体の自由が一切利かない。

辛うじて出来るのは呼吸と瞬きだけだ。


(な、何だこれは‥‥‥?)


「あなたの腕に〈束縛環(バインドバンクル)〉をつけさせてもらいました。

今のあなたには、自由は一切認められていませんので」


そう言われて初めて、俺は自分の左腕に金属製の環がつけられている感触があるのに気づいた。

全く、視線さえ動かせないなんて手錠よりたちが悪い。


「では、行きましょうか」


エレナがそう言うと、そばに居た見張り共が俺を乱暴に担ぎ上げた。


(おい!ふざけるなよ!降ろせって!!)


そう言いたいところだが、口が動かせないのでどうしようもない。

そのまま、俺はギルドの前に停まっていた馬車に放り込まれてしまった‥‥‥。


◇ ◇ ◇


一時間ほどたっただろうか。なにせ、この馬車には窓が無いので退屈で時間が長く感じる。


「着きました。降りてください」


言われるがままに俺は馬車から降りた。

その頃には拘束も解かれていたのでようやく自分の足で歩くことが許され、俺は少しほっとした。

だが、そんな気持ちになったのも束の間のことだった。

何故なら、俺の目の前に広がっていた光景が、あまりにも異様だったからだ。


「何だここは‥‥‥!?」


そこにあったのは、真っ黒によどんだ土に色を失った草木たち。そして、地面には至るところに大小様々の模様が描いてある。


「ここが〈灰原(グレイ・フィールド)〉。

‥‥‥第8特別魔方陣動作試験場跡です」


まるでモノクロの世界に入り込んだみたいだった。

空が曇っているせいもあってか、色を持っている自分達が異質なものに思えてくる。


「‥‥‥なんかすげぇ所だな‥‥‥」


俺は自分がこんな現実離れした場所にいることに実感が持てず、目の前にあった灰色の草に触れてみようとした。

だがその時。


「触らないで!!!」


不意にエレナが叫んだ。


「うぉっ!?どうしたんだよ急に‥‥‥?」


「この〈灰原(グレイ・フィールド)〉は度重なる魔法実験のせいで汚染されているんです。

10年前に閉鎖こそされましたが、未だその毒が抜けることはありません」


「それじゃあ‥‥‥昔はここも普通の野原だったってことか?」


「はい‥‥‥。ですが、10年前に事故が起こって‥‥‥

ここが閉鎖されたのも、〈灰原(グレイ・フィールド)〉と呼ばれるようになったのも、それが原因です」


心なしか、エレナの表情が曇った気がした。


「そうか‥‥‥それで、俺はここで何をすればいいんだ‥‥‥?」


「あなたには、ある魔方陣を破壊してもらいます。ついてきてください」


そう言ってエレナはさっさと歩きだした。俺もあわててそれに続く。

しばらく歩くと、小高い丘の上についた。

そこには、恐ろしく巨大な魔方陣が描いてあった。

学校のグラウンドなどゆうに越えるであろうそのサイズに、俺はただただ圧倒された。


「なあ、これがもしかして‥‥‥」


「‥‥‥はい。これが10年前の爆心地です‥‥‥」


そう答えるエレナは、明らかに悲しそうな顔をしている。


「なあ、ここで何かあったんだろ?」


俺は思いきってエレナにそう尋ねてみた。


「あなたに‥‥‥あなたなんかに話してもなにもならない!!!」


エレナの凄い剣幕に、俺は思わずたじろいでしまった。

だが、その大声は、更なる災難を引き寄せてしまった。


ゴゴゴゴゴ‥‥‥‥‥‥


地面が揺れる。


(何だ?地震か?)


だが、そうではなかった。地面はだんだん盛り上がり、それは俺のもとに近づいてくる。


「しまった!‥‥‥気をつけて、やつらが来ます!」


「奴ら!?一体何‥‥‥」


「ギィィィィィ!!!!!」


言い終わる前に、地響きの正体が姿を現した。

それは、まるで巨大ミミズのような‥‥‥見るもおぞましい化け物だった。


「うわっ!?何だこいつら!!?」


「〈異形(ミュータント)〉です!魔力汚染で突然変異した生物で、凶暴化もしてます!」


(くそっ、囲まれてる!戦うしかないのか‥‥‥!)


俺は自分の剣に手を伸ばそうとする。

しかし、エレナはその手を押さえ込んだ。


「下がっていてください。ここは私一人で十分です」


「おいなに言ってんだ!俺も戦う!!」


「駄目です。忘れたんですか?私はあなたの護衛。あなたを危険にさらす訳にはいきません。


‥‥‥大丈夫です、三分でこの化け物を土に還してみせます‥‥‥!」


そう言って、エレナは殺意と憎しみのこもった剣を化け物たちに向けた‥‥‥。

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