プロローグ
「おい風間ァア!!!」
荒々しい声が教室中に響き渡った。俺は不意をつかれて机を盛大に揺らす。
「お前さぁ~学校舐めてるだろぉ~?じゃなきゃ毎回毎回寝る筈がねぇもんなぁ?!大体‥‥‥」
俺の目の前で声を荒げているのは英語教師の岩谷である。
「‥‥‥また怒られてるぞ、風間のやつ‥‥‥」
「‥‥‥マジであいつ何しに学校きてんだよ‥‥‥」
「‥‥‥本当学習しねぇよな、あいつも‥‥‥」
クラスのあちこちからそんな声が聞こえてきた。
‥‥‥やっぱり学校なんてくるんじゃなかったな。
「お前のせいで授業の時間がどんどんどんどん減ってみんな迷惑してんだよ!分かってんのか!あ!?」
‥‥‥面倒くさいな。帰るか。
昼休みになると、俺は誰にも気づかれないようにこっそりと校門を出た。
◇ ◇ ◇
家の玄関を開けると中は静まりかえっている。両親は俺が高校に入学した時から海外出張でいなかった。
自分の部屋に入るとすぐに俺はすぐにパソコンの電源を点けた。それからカーテンを閉め、ヘッドフォンをして椅子に深く腰かける。
やっぱり、嫌なことはゲームで忘れるに限るな。
そう思って俺は〈BT〉にログインした。
〔リョウさんこんにちは(^-^)/〕
〔今日もよろしくお願いします。〕
〔早速マッチやりますか❕〕
たちまちメッセージ欄が俺への挨拶で埋め尽くされる。
俺には現実世界の友達はいないが、この画面を隔てた向こうには気のおけない仲間たちが山ほどいる。
俺が高校生ながらプロゲーマーだからというのもあるが、それ以上にこいつらは俺との会話が楽しいと言ってくれる。
それが俺にはとても嬉しかった。ここでは自分を押さえる必要がないのだ。
もはや俺に現実世界での居場所はない。でも、ここに俺を受け入れてくれる場所がある。
「あーあ、この中に入れたらどんなにいいだろうな‥‥‥」
そう呟きながら、俺はプレーを続けた。