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※この話は『花十篇 カーネーション』の続篇です。
前作のネタバレが多分に含まれますので、先にそちらを御一読頂けると助かります。
また、『前十篇』シリーズはオムニバス形式の作品です。
読む目安は、赤→灰→緑・蒼・白・黄→金→イレイザー・ケース→虹・黒となります。
可能であればその順番でお読み下さい。
「こんな事に付き合わせて済まないな、文斗」「いえ」
宇宙歴六百六十年、三月八日。政府館専用軍用トラック、荷台部にて。
後方の隅の幌にアサルトライフルを立て掛けた元上司、東雲 杏は本日何度目かの謝罪を入れた。その拍子にパサつく黒い前髪が額へ落ちる。
着慣れない迷彩服の襟を正し、別に構いませんよ、私は快く返答した。
「研修時代以来憧れの先輩から直々の指名なんて、望外の喜びです」
本心からの言葉に、憧れ、か……、十歳余り年上の防衛団員は皮肉気な微笑を浮かべた。
「止してくれよ、文斗。私が前の部署で何をしでかしたか、噂に疎いお前でも流石に知っているだろう?」
ガルドゥーネ一斉検挙の件か。当然聞き及んでいる。
以前より政府に危険視されていた新興カルトの実動部隊は、二代目教祖の洗脳を受けた十数人の少年少女達だった。彼等を救おうと、先輩は上の命令を無視し単身本部へと乗り込み、そして―――当人等の自爆テロに巻き込まれ、火傷他諸々の重傷を負い、九死に一生の目に遭ったのだ。
「ええ。ですが先輩一人が責任を取らされるなど、どう考えても間違っています。誰より迅速に、正しく行動したあなたが」
「結果が全てさ、文斗。私の力不足のせいで、未成年の彼等は亡くなった。今では親類縁者ですら、身内の恥と勘当同然の有様だ」
「!!?そんな、そんなのって酷過ぎます!!だって、あなたはあの爆発のせいで……!!」健康を永久に損なった上、子供すら授かれなくなってしまったのに。
絶句する後輩に、だが最も運命に憤るべき当人は目を細めた。
「ありがとう、文斗。お前は少しも変わっていないな」クスッ。「声を掛けたのがお前で正解だった。私の判断力もそう捨てた物ではないようだ」
「!?い、いえ……光栄、です……」
ああ、耳が焼けるように熱い。頼むから動悸よ鎮まってくれ。
妻と籍を入れ、とうに捨てた感情へ抗うように、私は強く頭を振った。