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アンソリテール 〜Dreamer's Card〜  作者: 姫蝶 火織
第1章 カードの世界
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第4話 『特待生』

 鈴と托矢はカードを受け取ると、紫苑学園に戻ってきた。

 ドローンで送ってもらうことも可能なのだが、そこをあえて歩いてる。二人はこれから錬成に取り掛かるつもりのようだ。


 錬成とは、バインダーに標準装備されている機能の1つで、カードを錬成素材として取り込み、錬成元カードの効果を上昇させる。この時、錬成元カードは必ずフェノメノンカードでなくてはならないが、錬成素材カードにはマテリアルカードも使える。


 この機能の長所は、あるカードの上位互換となるカードが欲しい時にわざわざ探さなくてよい、という点と、不要なカードをその場でリサイクルできるという点だ。日常生活で使う機会は多くないが、何かを製作する際には、極めて有用な機能である。


 また、カードには、この錬成という機能にも深く関わるある大原則が存在する。

『カード効果対代償等価の原則』

 ブライソン博士が唱えた理論で、読んで字のごとく、カードの発揮する効果とそのカードを製作するために支払う代償は必ず同価値である、ということを示したものだ。


 しかし、その価値の判定基準は特殊で、本人の価値観に依存する。不思議に思うかもしれないが、この理論は概ね正しいだろうと言われているのだ。




 さて、いつも通り雑談をしながら部室へと歩く二人だったが、ふと鈴が何かに気づく。廊下の端の机の上に、手紙が置かれていた。手紙といっても、小さい紙を二つ折りにして「秋月へ」とだけ書かれている簡素なものだ。

 中を見てみると「カフェテリアに来てほしい」と、これまた最低限の文面だけが記されていた。


 これだけ見ると不審な手紙だが、差出人も決まっているようなものなので、応じることにする。むしろ、無視した時の方が心配だ。


「托矢、ちょっと用事ができたから先に部室に行っててくれるか?」


と軽い調子で聞くと


「りょーかい」


と、二つ返事でOKをくれた。いつものことなので、状況も想像がつくのだろう。

 そんなわけで、鈴はそこで一旦托矢と別れた。



 カフェテリアに到着すると、鈴は迷わず一人の女子生徒のもとへ向かう。

 彼女は橘実佳、鈴や托矢と同学年の特待生で、その中では唯一の女子だ。成績こそトップだが、比較的無口で大人しく、あまり目立たない。しかし、欠点らしい欠点も無く、肩に少しかかる黒髪と色素の淡い肌が、端正な顔立ちと相まって、日本人らしい可愛さを引き立てている。文句なしの美少女だ。


 そんな生徒が鈴に何の用か、大いに気になるところだが、別に大したことではない。

 実佳は暇なのだ

 だから鈴を話し相手兼遊び相手、もとい暇つぶし相手として呼ぶことにしたのだろう。

 それにしては随分と面倒な手を使うのが不思議に思えるが、これにも色々と複雑な事情がある。


 たとえばそう、実佳は常識の無い人を嫌う。また、彼女は一度誰かを嫌うと、かなりしつこく嫌い続ける。とはいえ、これらは普通に接していれば全く問題にならないので、本来ならば気にすることもない。だが、もし、入学初日に挨拶されて、挨拶を返すどころか口説きにかかるような奴がいたら、数年は顔を合わせてくれないだろう。

 で、それをやったのが柊托矢、というわけだ。


 こんなアホがいるにもかかわらず、特待生というものは何かと特別視される。当たり前といえば当たり前かもしれないが、そうなると、特待生は特待生としか気軽に会話できない。平たく言えば、特待生以外の生徒では友達がかなり作りづらいということになる。


 また、実佳の学年の特待生は3人。そしてご存知の通り、実佳が唯一普通に接することのできる鈴は托矢と一緒に行動することが多い、というのがこんな状態になっている理由である。



 実佳は二人分の紅茶とクッキー、そしてなぜかオセロの盤を用意して待っていた。


「久しぶり、どうかしたのか?」


と、鈴が訊くと、実佳は勝手にオセロを始めた。


「別に。でもいい加減、あなた達が何をしているのか気になってね」


「......」


 鈴が珍しく黙り込んだ。


「あなたたちがパズル部で、パズルと全く関係ないカードの研究をしているのは知っているわ」


「そこまで知っているなら話は早い。その件なら、来年度の一学期始業式に、今までしてきたことを全部ばらすよ。でも、折角そこまで知ったんなら、ただその日を待つのも面白くないし、謎解きといこうか。これでも僕はパズル部部長だしね」


「謎解き?」


 怪訝そうな顔で実佳は聞き返す。


「そうだね、これから僕と托矢の昔話をしよう。その内容から、今何をしているのか推測してくれればいい」


「なるほど。今までにあった事実だけを教えるから、カードで何をしてるのかは自分で考えろってことね。フフッ、いいわよ」


 そう言って微笑む実佳には、鈴と同じ、パズラーの風格のようなものが宿っているように思えた。


「それじゃあ、早速始めようか」


 思い出に浸るように、ゆっくりと語りだす鈴の手元では、しっかりとオセロが続いている。鈴と実佳ではほぼ互角のようだ。

 どうもここにいる連中は、どいつもこいつも才能を持て余してるらしい。

ちょっと熱を出していて更新が遅れました。

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