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アンソリテール 〜Dreamer's Card〜  作者: 姫蝶 火織
第1章 カードの世界
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第2話 『始まり』

 そろそろカードについて、しっかりと説明しておかなくてはなるまい。


 この「カード」と呼ばれるもの、その発祥は数世紀前にまで遡る。

 発明されてから現在に至るまで、カードは人間に多くをもたらし、多くを奪っていった。いや、そもそもカードは人間の作ったものなのだから、失ったと言うべきか。

 いずれにせよ、発展と衰退は表裏一体ということを実感させる発明品であることだけは確かだ。


 では、さしあたり、昔話の定型文から始めるとしよう。


 「昔々あるところに…」と。




 昔々あるところに「二人の天才」と並び称された科学者達がいた。

 一人がモーラル·ブライソン、もう一人は名も知られぬ誰か。

 ブライソン博士はフェノメノンカードの開発者で、もう一人がマテリアルカードの発明者であり、カードの創始者とされる人物だ。


 二人の功績は世界中で認められ、受賞した賞の数は枚挙に暇がない。

 だが、二人共死後に研究成果が発見されているので、今なお謎が残っている箇所もある程だ。

 それだけに様々な憶測や噂が飛び交い、一部は都市伝説と化している。


 こんな謎に満ちた二人の科学者からカードは始まっている。




 カードが発明される少し前、世界は戦争を繰り返していた。


 世界各地の戦場では、毎日数え切れない程の兵士が殺され、市街地では一般人も空襲に怯え、どこもかしこも死屍累々たる有様で、終わる気配の無い戦争に誰もが絶望していた。


 中でも過去最悪と言われた「大戦」、世界の主要国とその思惑に巻き込まれた数知れぬ小国の全面戦争。その大戦による全世界累計の戦死者数が1億人を越えようとしていた頃。その戦争は誰も予想の出来ない方法で唐突に終結を迎えた。


 カードの発明。たったそれだけで、長年に渡って甚大な被害を出した大戦は終わったのだ。



 「カード」というのは通称で、正式名称は圧縮収納還元装置。その名の通り、物体を圧縮して保管、必要な時に還元する装置だ。

 そんな物が発明されれば、殆どの通常兵器は意味をなさなくなる。


 例えばミサイルが飛んてきたとしても、カードを搭載したミサイルで迎撃して空中で敵ミサイルを吸収、敵地で還元すれば2倍にしてお返しできるわけだ。


 もちろん、吸収する物の質量に比例してカードも大きくなる上、かかるコストも莫大になるので、そう都合良くはいかない。

 また、複数枚のカードで物体を吸収することも可能だが、一枚のカードに収納できないと還元が出来ないなどの制約がある。


 極めて汎用性が高く強力な道具ではあったが、開発されたばかりのということもあり、用途は限られていたのだ。


 とはいえ、カードの活用法もこれだけではない。

 例えば、戦争では兵器が必要になるが、専門家は極めて数が少ないため、主に一般人が動員されて制作に当たることになる。

 だが、薬品に馴染みの無い一般人が危険物を持てば、事故が多発するだろう。

 そこで、危険物をカードに収納しておけば、かなりの事故を防ぐことができ、管理や輸送もしやすくなる。

 

 しかし、これだけでは戦争の終結に至る理由としては不十分だ。それこそ核兵器の様に、吸収する間も与えずに被害を出せる兵器は存在する。

 戦争の終結には全く別の要因があったのだ。


 それについて説明する前に、前置きとなる話をしよう。当時の戦争についてだ。



 戦争、それは何も武力だけが全てではない。当然の事ながら、情報戦も裏では姦しく行われている。

 そして情報戦においては、攻める盗むより、守る方が圧倒的に難しい。

 よって、労力にあまり見合わない守りは切り捨てられる傾向にあり、情報は殆ど筒抜けだった。


 カードの発明も例外ではなく、発明した国では国家機密とされてはいたものの、どこからか漏洩し、またたく間に世界中に知れ渡った。


 そうして、カードの存在を知った国々のとった行動は概ねこうだった。

 自国でもカードを生産し、出来る限り多くの国民に行き渡らせる。


 至極まっとうな判断だ。カードは人的被害を大幅に軽減できる。自国だけ国民が被害を受けているなんて状況になっては、戦争の敗北は確実だ。


 かくして全世界に広がったカードは、上々の効果を発揮。通常兵器は問題なくカードに吸収され、無力化された。



 では、これがなぜ戦争の集結につながったのだろうか?


 その原因はカードの仕組みにある。


 国民に配られたカードは、敵の兵器を吸収することで攻撃から身を守る仕組みだ。しかしカードとは圧縮収納還元装置。吸収もすれば、もちろん還元もできる。


 要するに国民が兵器を持ち、恐怖政治や圧政の類のことが出来なくなったのだ。

 もちろん、それも苦境に耐える中で生まれた、民衆の横の繋がりが無ければ成立しなかった訳なのだが。


 何はともあれ、戦争賛成派の上層部がこれに気付いた時には、もう兵器を吸収したカードの詳細を知る術も、回収する手段も無かったのだ。


 その後は終戦へ一直線だ。

 今の今まで戦争を主導してきた各国のトップが揃って反戦を訴える。全く滑稽もいいところの話だが、戦争なんて所詮こんなものなのだろう。



 しかし終戦直前、カードを開発した研究所とその周辺施設が空襲によって破壊され、研究所が火災で炎上した。

 カードは狭い範囲を守るのには効果的だが、広範囲の防衛には不向きなので、人命の保護はできても施設の保護はできない。また、一度燃え広がってしまった火災を鎮めるのも難しい。


 最終的に研究所は全焼し、研究成果も全てきれいに焼失。後の調査で発見できたのは数十人の研究員の遺体だけだった。

 そしてこの遺体のうちの一人、遥か昔に研究所に入ったきり一度も出てこなかったと言われている最後の所長こそが、カードの創始者と言われている。



これがカードの始まりだ。

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