プロローグ 『夢』
初投稿です。
あまり文章に自信はありませんが、出来る限り頑張りたいと思います。
楽しんで頂ければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
夜のとばりが降りた森林。
少年はその暗闇の中で、少女と相対して立っている。
不思議なもので、彼には少女の姿がぼんやりと見えているようだが、少女の方は少年など全く見えていない様子だ。
少女は見るからに儚げで、なんとも言えない寂寥感が周囲に漂っていた。
月は雲に覆われ、ほとんど光の無い中でざわざわと揺れる木々はどれも巨大だったが、不思議と全く怖くはなかった。
しばらくの間、ただぼんやりと夜空に散る星を眺めていた少女だったが、突然、警戒心をあらわにして空中の一点を睨む。今までの緩慢な動作からは想像できない、まるで野生の獣のような俊敏さだ。
一瞬の出来事に全くついていけなかった少年は、驚きを隠せないながらも冷静に、少女の視線を追いかける。
二人のちょうど中間あたり、そう高くない位置に浮かんでいたのは小さな光の粒だった。
雪のように真っ白でありながらも仄かな暖かさを感じさせるその光は、少しずつ輝きを増しながら闇夜を眩しく照らし出した。
しばし呆気にとられているとその光は次第に収束し、小さな塊となった。
何の変哲もないただの白い光なのだが、引力に似た不思議な力を感じさせる。
少年もその力にあてられたのか、光を見つめていると吸い寄せられるかのように手を伸ばし、指先でその光に優しく触れた。
刹那、今度は光の塊が金属製のきらびやかなペンダントへと姿を変えた。
それは幾重にも歯車が組合わさってカチカチと動いており、時計の内部構造をそのまま持ってきたかの様な奇妙な形をしている。もちろん時計とは違って針は無く、動くスピードも時計と比べると少しばかり早い。
さて、空中に突如として現れたペンダントはというと、落下し、再び驚異的な反射神経を発揮した少女によって難なく捕らえられた。
捕らえた瞬間に何かを感じ取ったのだろうか? 一瞬の硬直をえて、少女は驚きと喜びとが入り交じったような表情を浮かべて顔を上げる。
目に入ったのは、僅かに微笑みを浮かべる少年の姿だった。
さすがの少女もこれには驚いたようで、唖然とした。方や少年は時間切れとでもいうように寂しげに軽く手を振ると、もともと幻であったかのように闇に溶けて消えていった。
残された少女は何を思っているのか、しばらく眼を瞑っていた。そしてゆっくり眼を開けると、確かな質量を感じさせるペンダントを自らの首に掛けた。
ひとつ大きく深呼吸し立ち上がると、少女は優しく微笑みながらその場をあとにした。
立ち去ろうとする少女から寂しげな雰囲気は嘘のように消え、代わりに生気と希望を取り戻しつつあった。
叢雲の陰からようやく現れた月の明かりは、森の木々の間をすり抜けて少女を照らす。
その眼は妖しく、美しく輝いていた。
ついさっきまで森の奥にいた少年は、いくらか経って夢から覚めた。
少年は胸元をまさぐり、たった今夢で見たペンダントが自分の首に掛かっているのを確かめる。昨日の夜までは動きもせず、冷たいだけだったペンダントは、仄かな暖かみを帯びて動いていた。
投稿周期は不定期になるかと思います。
どうぞ気長にお付き合い下さい。