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転生?9

僕とカユラが来た道を戻ると、ミルとキサギが出発の準備を始めていた。

そんな二人に僕とカユラが手を振ると、ミルは僕を睨み、キサギは僕らを見無言で見つめていた。


「姫様、出発の準備が整いました。いつでも出れます。」


「・・・あるがとう、ミル。では行きましょう!魔女を・・・この国を取り戻す為に!!」


カユラはそう叫ぶとミルはその号令に忠誠を誓うかのように膝を着いた。


「イツキ様、少々お話があります。」


キサギに呼ばれ、僕はキサギに付いて行った。

キサギはあの二人から離れたことを確認し、僕に包帯のようなものを見せた。


「これは貴方の黒化の進行を遅らせることが出来るものです。これを持って下さい。」


「ああ・・・って何だこれ!?いきなり巻き付いて・・・。」


包帯は、僕の黒化が進んでいた部位に的確に巻かれていた。

そして、先程まで感じていた痛みも、ほんの少し和らいだようだ。


「それを巻いている限りは黒化による痛みもありません。ですが、それを外すと黒化は急激に進行し、長くても10分でその身が覆われます。」


僕はキサギに「覆われたらどうなるんだ?」と聞こうとしたが、それは喉元で止まった。

その答えが、自分の中で見つかったからだ。


「・・・そろそろ出発です。無事、試練を乗り越えることを祈っています。」


キサギはぺこりと頭を下げ、その場を後にした。

僕は、自分の左腕に巻かれた包帯を見つめた。


「試練は、腹をくくれば簡単・・・なのにな。」


左腕の拳を握りしめる。

まだ震えていた。

僕は、その震えを抑えるように強く、更に強く握りしめた。

「国を救う英雄譚の始まりだ。」

違う、国の燃えカスを掃除する殲滅戦の始まりだ。

「平凡な人間の僕は大きな希望を持つ人間の手助けができれば満足なんだよ。」

姑息な手を使って屍の上で自由を手に入れようとしてんだよ僕は。

平凡じゃない、クズだよ。

「自分の命より、大切なものがあるのかよ。」

そんなものはない。

命を守るためなら、人はどこまででも残酷になる。


「惨めだな・・・僕。」


口から自然と出たこの言葉が、僕を現実世界へと引き戻してくれた。


「イツキー?そろそろ出発するよ!!」


遠くからその声が聞こえ、僕は声の方角に歩き出した。

いま、僕を支配しているのは恐怖なのだろうか。

壊れ

ていく自分の人格を、僕は眺める事しかできないのだろうか。

図書館を後にし、僕達はキサギの案内の元、王宮へと向かっていた。

キサギが案内する道には、あの化物は影すらなかった。


「あれ、イツキ・・・左腕、怪我したの?」


「ああ、さっき怪我をしたんだ。そこまで大きな怪我じゃないから心配しなくても大丈夫だ。」


カユラは「そう?」と曖昧な返事をした。

包帯はその効果を発揮しており、痛みは引いていた。


「・・・皆様、そろそろ隠し通路に到着します。道は暗いので決して、私から離れないでください。」


キサギのその言葉に僕はあることを確信した。

僕は、左手を右手で握り締めていた。


僕達は、その暗闇に足を踏み入れた。

そこはもう使われていないとも言える、廃墟。

化物に壊されたのか、はたまた人間に忘れ去られたのか。

・・・多分後者だろう。

まさに忘却の地。


突然、僕の右手に温かく、やわらかい感触がした。

振り返ると、そこにはカユラの姿があった。


「手、繋いでいれば、はぐれないでしょ?」


カユラは無邪気に笑った。

僕は、「ああ。」と返事をすることしかできなかった。

ミルはそんな僕の姿を見て、カユラの空いていた片手を握りしめた。


「イツキだけでは不安です。私の手もお貸しします。」


「ミル・・・怖いの?」


「え!?い、いえ・・・そんなことはありませんが・・・。」


カユラの素朴な疑問に、ミルは慌てふためいていた。

僕はそんなミルの姿を初めて見たかもしれない。


「そろそろ行こう。あの化物が襲ってくるかもしれない。」


僕はカユラの手を、強く握り返した。

「あ・・・。」と弱弱しい声を上げ、僕に引っ張られていた。


ある程度の距離を歩いた時、目の前が一切見えなくなる程の暗闇の中にいた。

明かりも無く、まるで死の世界への道とも言えた。

恐怖を感じているのだろうか。冷や汗をかいていた。


「・・・ここは寒いわ。まるで、死んでいくよう・・・。」


どうやらカユラも同じことを考えていたらしい。



「・・・イツキ、貴方に伝えなければならないことがあります。」


カユラの声が聞こえた。

だが、周りは暗闇でその姿は見えなかった。


「私は、貴方に感謝しています。貴方には勇気を貰いました。・・・母が、この国を崩壊させた。その事実を受け止めきることが出来ずにいました。」


「それは、誰のおかげでもない。自分で克服したことだろ?僕は褒められるべき人間じゃない。」


「そんなことはないわ。貴方は、とても素晴らしい。自分に自信を持って下さい。」


「・・・ありがとう。」


僕は感謝の気持ちを短く伝えた。

これ以上、言葉が思いつかなかった。

僕の頭は、もうまともには回っていなかった。

いつでも、カユラの手を離すことはできる。

だが、今更になって僕は命について考え出した。

存在意義、目的・・・そんなもの、何もない僕が生きる為に二人を見殺す。


「僕は・・・目標も無く、生き続けるのか。」


口から不意に出てしまったその言葉に、僕は驚いた。

手で口を抑え、緊張と焦りで体が一気に熱くなった。


「なら、目標を見つける為、生きればいいではありませんか?国を救うのも、人を愛するのも、気ままに旅をするのも・・・イツキならできる筈です。」


その瞬間、僕の右腕から引っ張られる感覚は消えた。

僕は手を離してはいない。


「カユ・・・ラ?」


カユラが、離したのだ。

僕は、カユラ何故、手を離したのか。

その理由が、雷に打たれたかのようにわかった。


「ま、待てカユラ!早まる・・・。」


瞬間、地面から何か陣のようなものが浮かび上がってきた。


「お疲れ様です、イツキ様。無事、試練を終えることが出来たことを祝福いたします。」


振り返ると、そこにはキサギの姿があった。

そして、僕の最低な考えの重さを理解した瞬間でも、あった。





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