転生?8
頭の中が空っぽだ。
国から命からがら走って逃げた。
身体はもう限界に近いのだろうか、何も考えらない。
こんな時に限って、色んな記憶が蘇ってくる。
母様との食事、母様との遊戯、母様との・・・・。
全て母様との思い出ばかりだった。
「カユラ!ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「・・・イツキ。」
カユラはその足を止め、僕を見つめた。
僕は彼女を追いかける為に走り、そして追い付いた。
「お前は、自分の母親が化物を操るところを見たことがあるのか?」
「そんなの、あるわけないわ。母様は・・・。」
途端、カユラの眼から涙が零れた。
「わ、悪い!その・・・変な事、聞いて悪かったよ。」
「イツキも、こんな怪しい女と一緒に行動したくはないでしょ?私は、魔女の娘よ。ミルも、キサギも、私と一緒に居たら死んでしまうわ。だから・・・。」
カユラは涙を拭きとり、僕に笑顔を見せた。
「・・・そんな事、考えてもいないよ。お前が勝手に思ってるだけだ。ミルも、僕もお前が何者だったとしても、例え国を崩壊させた奴の子供だったとしても。それだけがカユラ、お前の全てじゃないだろ。」
「でも———。」
「それに、本当にお前の母親が犯人だとしたら、娘のお前を狙うのはおかしいだろ。そして国を崩壊させる理由もない。色々不自然だろ。」
僕は、自分でも驚く程の説得力があるセリフが、頭の中から口まで滞りなく出ていた。
そう、僕は必死なのだ。
自分が生きる為に、カユラを犠牲に生きる為に。
「僕は、カユラを信じる。だから、カユラも僕を信じてくれ。・・・ミルとキサギが待ってる、行こう。国を救う英雄譚の始まりだ。」
僕はそう言い、カユラの手を掴む。
全く、我ながら臭くて、内容の無い一言だ。
カユラには今の僕はどう見えてるのだろうか。
僕がもし、光り輝く先駆者に見えるならそれは間違いだ。
僕は、カユラ。君を地獄に導く案内人だ。
「ありがとう・・・ありがとう・・・。」
カユラはただその単語を繰り返し呟き続けていた。
偽った感情をしている僕。
僕は、カユラのこの姿に何かを感じる事は出来なかった。
何かを感じた途端、僕は、今の『僕』は崩れ去るような・・・。
そんな事、ありはしない筈なのに・・・。