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終幕二

「———朝、か?」


心地の悪い夢を見た気がする。

体を起こそうとしたが、力がうまく入らなかった。

手を少し動かすと、その手にはヒヤリとした冷たい感覚が伝わった。

僕は首を少し動かしてその手にあるものを見る。

銃だった。

それを見た瞬間、僕は虚ろだった意識が段々と定まってきた。


「———ああ、そうだった。僕、父さんを・・・。」


レイは、イツキが助けたんだったっけ。

ああ、僕は殺してばかりだ。

ユナは腕に力を込めて上半身を起こす。

おぼろげな目を擦り、息を吐き出す。

冷たい風が顔に当たる。それが僕の眼を覚まさせてくれた。


「起きたか。」


イツキはユナの隣に立ち、僕を見下ろした。

僕は一生懸命に立ち上がろうとしたが出来なかった。


「・・・レイは?」


「外に居るよ、今は声を掛けない方がいい。」


「そうなんだね・・・。イツキが、助けてくれたの?」


「違う。僕も、お前を誰も助けることは出来なかった。レイを助けたのは・・・。」


「わかってる、ロードだろ?」


イツキは特に驚きもせず、僕から目を背けた。


「これが、お前の望んだ結末なのか?」


「僕は———誰も、死なな、い。最小減の、犠牲で・・・。」


声を出している途中なのに、目からポロポロと涙が出てくる。

僕が言っていることは正しい。正しいはずなんだ。

因縁も、何もかもを断ち切った。

だけど、どうして後悔してるんだ?

これで、終わったじゃないか。


「最小の、か。」


イツキは僕の服を掴み、引っ張り上げる。


「華は、誰にでも一つだ。いくつも無い。僕はその華をこの目で見ることが出来る。」


「それが、何だっていうのさ。」


「お前は、どんな力を持っている?一発で、あの化物を殺すことが出来た、これが何を意味するのか、解るか?」


「わからないよそんなの!ただ僕が・・・人殺しの力を持っただけじゃないか!」


僕は力の限り叫んだ。

イツキは顔を一瞬だけのけぞらせたが、直ぐに元の位置に戻す。


「そうだ、その通りだ。だけど違う、お前の力は・・・。」


「だから!それじゃ人殺しと変わらない・・・僕もその化物と一緒だ!」


ユナは興奮し、まともに人の話を聞けなくなっていた。


「なら、今すぐにでも僕を撃ち抜け。」


イツキはそう言って僕を離した。

そして、距離を開け腕を広げた。


「———。」


イツキは静かに僕を見つめた。

僕は、銃を握りしめ彼に照準を合わせる。

そう、ただこの引き金を引くだけ、引くだけなんだ。

難しいことじゃ、ない。

僕は化物、父親を殺した化物。父親から、レイを守ろうとして・・・。


「僕は、化物なんだ。二人を、殺した———化物なんだ。」


例え、父さんが狂っていたとしても。

・・・・震えるな、ただ真っ直ぐに、構え———。


「そこまで迷う奴が、化物だなんて言うんじゃない。」


イツキはそう言って僕から銃を取り上げた。


「あ———。」


「あー、前の発言は全部無しだ。外でレイが待ってるぞ。会いに行ってやれ。」


イツキはそう言って僕の背中を掴み、ポーンと外に放りだした。

そして、イツキはその場に座り込み顔を手で覆い隠した。


「———ユナに当たってどうするんだよ。もうこんな事起こさせないって誓ったのに・・・!!」


「まあまあイツキさん、落ち着きましょうよ。落ち着けば冷静に・・・。」


僕はフッと現れた聖女を押し倒し、喉元を手で押さえる。


「イツキさん?どうかされましたか?」


「お前は、お前だけは許さない。」


「酷いですね。貴方の為にしている事なのに・・・。」


「人を、人の感情を弄んで・・・何が僕の為だ!そんな事ある筈・・・。」


「私がここで生きているのは・・・貴方の為だけですよ?」


「違う!」


「私は、貴方を愛しています。ですからどんな時でも貴方の事だけを考えています。今回も、貴方を救い出すために———。」


僕は聖女から手を離し、距離を取った。


「———警戒されてますね私。そう、ですよね。私のやったことは、とてもひどい事です。ですが・・・。」


聖女は起き上がり、僕の顔を見上げた。


「貴方は、もっと酷い渦の中に居るんです。」


僕はその言葉を発した彼女に寒気がした。


「酷い渦って・・・。その先に、何が待っているんだ?」


聖女は目を瞑り、後ろに振り向いた。


「それは、貴方がよくわかっているはずです。」


彼女はそうつぶやき、その場を去った。

———渦、か。

震える手を抑えながら僕は空を見上げた。

空は、何か不気味なものに見えた。



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