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花畑8

「———君は、元の世界に帰りたいと思ってる?」


見えないそいつは僕にそう話しかけてきた。

僕は目を泳がせて、空に顔を向けた。


「僕もわからない。記憶も無いんだ、だから・・・戻りたいって感情が、あんまり湧かないんだ。」


「まるで死人みたいだね。じゃあ君は何を目的として生きているんだい?」


「———それに、理由がいるのかよ。」


「無いから、こうして迷っているんだろう?」


僕は、そこに寝転んだ。

実を言えば、僕はこの空間からの出方を知っている。

だが、出られない。

開ける鍵が、見つかっていないから。


「希望———か。」


希望。カユラを救うという希望。

だが、それは出来なかった。

そう、前回に使った鍵は壊れてしまったのだ。

生きる理由は必要ない、生きていればいい。

言ってるやつがこんな状態だ。


「———ねぇ、もしもだよ。ここに咲いている花が、命の花だったら君はどう考える?」


「何それ?命の花って・・・一体、何百・・・何千輪あるんだよ。」


フッと風が吹く。

僕は揺れる花を見つめた。


「それが、君の犯した罪の数だ。数えきれないだろ?でも、記憶をなくす前の君は覚えていたよ。」


「それは、僕じゃない。」


反射的にそう答えた。

理由はわからない。

ただこの瞬間、何かがくっついたような気がした。


「———それが、君の考えか。うん、なら・・・。」


強い風が吹きつけた。

僕は咄嗟に目を瞑った。


「もう、ここには来ない方がいいね。」


命の花・・・。

何を意味するんだ?

命・・・か。



「———起きて下さい。起きて・・・起きて。」


少しづつ、目を開ける。

広がった景色は少し晴れた闇の中、といったところだった。


「目が覚めましたか。どこか動かしにくい部分はありますか?」


「ないよ。———あれ、聖女は?」


「・・・聖女はいませんでした。イツキ一人がここに倒れていました。」


そうか。

僕は上半身を起こした。

そして、僕の傍らにいたキサギの顔を見ようと横に向いたが、それと同時にキサギも横を向いた。


「——キサギ。」


「はい。何でしょうか?」


「僕はそっちに居ないぞ?」


キサギは黙り込む。

———これはあからさまだ。

何かに怒っているのか?何に?

・・・わからない。


「えっと、キサギ。何に———怒っているんだ?」


「死にたがりには教えません。」


なるほど。

つまり僕が悪いのか。

ああ、僕が悪い。

だって、こうして無防備に倒れていたのだから。


「ごめん。自分の力に過信し過ぎた。その結果、キサギの毒も———。」


ん?

そうだ、そういえば僕は・・・。

僕は立ち上がり、キサギの肩を掴む。

キサギは依然、明後日を見ている。


「キサギ。」


「———何ですか?」


「脱げ。」


「は?」


「脱げ、僕はそう言っている。」


「お断りします。それよりも先にやるべきことがあるのでは?」


僕はキサギの横顔を見ながら考える。

そして、一つの結論に至った。


「聖女から受けた攻撃の傷が見たい。だから脱げ。」


「何も進んでいませんよ?要するに『裸が見たいから脱げ』ということですよね?」


「どこも要せてないぞ。わざわざ詳しく言った意味がないじゃないか。」


「女性の裸に興味がないのも問題ですよ。」


どうやらキサギは相当怒っているらしい。

僕の言葉を研いで僕に投げ返してくる。


「———ですが、心配して下さってありがとうございます。」


キサギはボソッと呟き、体ごと僕から背いた。


「早く行きましょう。・・・二人が心配です。」


「———ああ。」


僕らは歩き出した。

薄暗い、闇を。


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