花畑5
「待っていた、この時を・・・。」
ウィルは身を構える。
そんなウィルに対してコリンドは身を構えることもせず、ただ睨みつけていた。
「どうした?構えないのか!?」
「レイは何処だ?私の目的はそれしかない。」
「ほう?ならば早く私を倒さなければな。まだ体が丈夫にできてはいないだろうから即死してしまうだろうなぁ。」
ウィルは自らの首を手で叩く。
そしてにこりと笑う。
「・・・マリアを、知っているか?」
「誰だそれは?」
「———。」
ウィルはきょとんとした。
コリンドが訳も分からない女の名前を出したからだ。
いや、コリンド?
こいつはロードだ。
最期の生き残り。
「ろ、ろろろろロード!」
ウィルは叫び、体のあらゆるところから黒い瘴気が溢れ出した。
何が楽しい?
自分で自分に問いかけたい。
まるで別人になったかのようだ。
「ならお前は、アズラか。」
ウィルはコリンドに飛びかかる。
身体中が黒い瘴気に覆われていておおよそ人と呼べるものではなかった。
頭だけが、人のままだった。瘴気はどんどんと体となっていき、まさに化物となった。
「Aaaaaaaa!」
「———お前は・・・アズラ、ではないな。」
アズラの拳がコリンドに当たる。
コリンドは地面に叩きつけられた。
「———始まりましたね。どうですかフェルミナ?どっちが勝つと思います?」
「興味がない。奴らの因縁にわしが関わっておらぬからな。」
聖女はにこりと笑う。
そして、息を吐き出した。
「にしても、やはりフェルミナはずるいですね。」
「・・・何がじゃ?」
「運ですよ運。一度で成功させるなんて・・・ほんとずるいですよ。」
ハッ。とフェルミナは嘲笑う。
当然じゃ。とでも言いたいかのように。
「でも、まだ諦めていませんからね。」
「ほう?あの男それほどに信頼できる器なのか?」
「いえ、あれはもう無理です。元が弱かった、ですがこれでよかったと思ってますよ。だって、成果はありましたから。」
そう言ってイツキを指差す。
「だがいいのか?ワシの手助けをしただけではないか?」
聖女は笑う。
「本当に、そうでしょうかね?」
「ほう?」
「貴方は、あの女まで使って守っていますが・・・守り切れますかね?」
「それは簡単に毒で殺せると思ったからか?ならばそれは見当違いじゃな。」
聖女とフェルミナはにらみ合う。
「まぁ、そうですね。あの程度では死なないですね。あの女は。」
彼女たちの声を聴いたかどうか。
キサギは、目を覚ました。
「・・・イツキ様。」
キサギはすぐに立ち上がり、扉を開ける。
「うわ!!」
すると、扉にもたれ掛かっていたユナが吹き飛ばされた。
「いたた・・・ってキサギ!動いても大丈夫なの!?」
「・・・大丈夫とは?」
キサギは逆にユナに質問した。
まるで、自分はただ寝ていただけと言うかのように。
「い、いや・・・怪我はもう平気なのか?」
「・・・?ええ、別にどうとも———と、私よりも貴方の方が怪我をしているように見えますが・・・。」
「・・・こんなの大したことないよ。」
ユナは左目を触る。
本当に大したことはないのだ。
さっきから痛みも感じない。
・・・なら、この包帯も取っていいのかな。
「そうですか。でしたら、私はイツキ様の下に向かいます。」
「あ・・・ま、待って!」
「何か?」
「どうして、どうして行くの?もしかしたら、次は本当に死ぬかもしれないよ?」
ユナは震えていた。
涙も出そうになっていた。
あの時の恐怖がユナの足を掴んでいる。
こんな自分を想像したことは無い。
こんな・・・情けない自分。
「死ぬ・・・ですか。私は、それでもいいと思っています。」
「・・・え?」
「この後で、行かなかったことを後悔するより、行って死ぬことを後悔したい。」
そう言い残し、キサギは森に消えた。
そこには、ユナただ一人が取り残されていた。