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因縁7

二人は長い間合いを保つ。

銃を持っているウィルとかいう男の方が長い射程の中で有利だと思うが、相手は弾道を読んでしかもそれを華麗に避ける。

かと言え、ウィルと言う人間のあの自身気な態度も気になる。

だが・・・そんなことより、と思わざる負えない。

あの女。顔を黒い布で隠している。それに黒いローブまで着て・・・。


「・・・おい。貴様は誰だ?」


ウィルが僕に銃口を向け尋ねる。


「僕からすれば、その後ろの女性が気になるね。」


丁度いい。聞き出してやろうか。

現在僕はウィルとコリンドに挟まれている。

時間を稼ぐ&謎を解く。

ノーリスクハイリターンと行きたいところだ。


「———聖女様だ。」


「え?聖女・・・様?」


ウィルは驚く程に迷わず僕に言った。

罵声の一言二言を覚悟していたが、これは想定外だ。

脱出の仕方をまだ考えていない。

それに聖女様って・・・なんだそれ?


「ふふ、私に興味をお持ちなのですか?」


そう言いながら聖女は僕に歩み寄る。

ウィルとコリンドの戦闘状態の間合いの中を、すいすいと。


「そうですね。よく顔を見せて下さい。ほら・・・・。」


聖女は僕に顔を近づける。

何故か、変な汗が噴き出す。

そして、動けない。

動けと、器に指令しても指令が届かない。


「ふふふ、照れているのですか?可愛いですね・・・。」


彼女の手が、僕の顔を撫でる。

まるで、人形を触るように。


「・・・聖女様、危ないですのでそこから離れて下さい。」


「あら?そうでしたのね、そうしますわ。」


聖女はそう言って僕から離れる。


「———ハァ———ハァ。」


どっと、喉に空気が昇る。

それをひたすらに吐き出した。

立っていられなくなり、地に膝を着きそうになった瞬間、腕が持ち上がる。


「イツキ、ここから離れるよ。」


その声は、ユナだった。

ユナが僕の肩を持ち、間合いの外へと連れ出してくれた。


「あり・・・がとう、ユナ。」


ユナは僕に何も言わず、間合いの外へと急いだ。

歪んでいた視界が段々と治っていく。

そして、ある程度歩いた時———。


地面を削る音と、銃声が響く。

振り返ると、コリンドとウィルの戦闘が始まっていた。

ウィルが弾幕を張る。

そしてそれを軽やかに避けていくコリンド。

戦い慣れている、と言うのだろうか。

どちらも、無駄な消費をしていない。

しかし、ウィルの方が圧倒的に不利である。

段々と、距離を詰められているからだ。


「父上・・・!!」


ユナもその状況に不安を募らせたのか、口から言葉が零れた。


「ユナ。どうして・・・戦っているんだ?あの二人は。」


「———因縁です。」


違う。

それだけでここまで力の差がはっきりとしている相手に挑めるわけがない。

小細工も無し。正々堂々なんて命を捨てに行くような行為だ。


「・・・もう、大丈夫だ。ユナ、キサギの所に戻ってろ。」


「———わかった。」


ユナは素直にこの言葉を受け取り、キサギの元へと走った。

僕はその場に座り込んだ。

疲れたわけじゃないが、何かがすり減った感覚だ。


「ふッ・・・この程度の力で生き残っているとは、どうやら悪運だけは強いようだな。」


「ああ、おかげさまでな。」


何故か、ウィルは余裕な笑みを浮かべている。

コリンドの挑発にも乗ってはいなかった。

不気味だ。

多分コリンドも同じ考えなのだろうか。


「ならば・・・この場で殺してやる!!」


「ああ、あの女のように・・・か?」


コリンドの雰囲気が変わる。

鬼、激情に呑まれたのだろうか。

突然、空に向かって大きな咆哮を上げる。

空気が揺れる。

わずかだが視界も揺れていた。


「おお、怖い怖い。」


ウィルは未だに余裕を保っていた。

———だが、勝負は一瞬だった。

コリンドが、左腕でウィルの胸に一閃を・・・。


「・・・な。」


「やっと突っ込んできてくれた・・・なぁ!」


ウィルはコリンドの左腕を、手刀で切り落とした。


「が・・・・ぁ。」


コリンドは後ろに大きく下がる。

左腕、があった場所からは大量の血が流れていた。


「これでも崖から落ちたんだぜ?普通に考えて・・・動けるわけないだろ?ちょっと小細工でもしなきゃな。」


ウィルの体は・・・僕は、この目に焼き付いているあるものが付いていた。


「黒く、蠢くもの!!」


何故だ?何故、そんなものをこの男が持っている?

考えているうちに、ウィルが徐々に、徐々にコリンドへと近付く。


「これで・・・終わりだな?いや、まだ終わりではないか?あの子、お前の娘か?」


ウィルは体に黒く蠢くものを纏わりつける。


「さぁ、この因縁もここで・・・。」


ウィルは手を上に上げる。



「終わりだぁ!!」


「とは行かせない!」


僕はウィルの一撃を受け止める。

その行動にコリンド、ウィル、更に聖女まで驚いた。


「と、父様?」


目の前の光景が信じられなかった。

腹を貫かれて、狂気に笑う姿。

ユナの知る父とは違う姿だった。

聖女はそんなウィルを見るわけでもなく、寧ろイツキを注視していた。

そして、ふぅ、と短い溜息をつく。


「さて、そろそろ私も始めなくては。」


ユナは声の方向に振り向く。

そこには聖女が立っていた。


「あらあら?ユナ様おられたのですね。」


「———。」


聖女。

彼女は突然現れた。

僕はこの女に違和感を感じ、家を出てコリンドを探しに出た。


———そもそも、コリンドの討伐に僕は行っていない。

エルブレグ家は衰退が進んでいた。

それは財産的にという訳ではなく、子が生まれなかった。

そんな中、生まれた僕は大切に扱われた。


「ユナ様、ここで出会うのも何かの縁。手伝ってはいただけませんか?」


「・・・何をだ?」


聖女はニコリと笑い、ユナの肩を掴む。


「あの女の子を、殺すんです。ほら、あの女性の後ろにいる女の子です。」


「どういうことだ?あの女の子は関係ないだろ?」


そうだ、関係ない。

あの子は、レイ。レイだ。


「いえいえ関係ありますよ。だってあの子は、コリンドの子。つまり滅ぼすべきヴァンパイアなのです。」


「関係ない!」


僕は大声で叫んだ。

実際、彼女は何も関係ない。

ただ生きてきた。それだけだ。


「・・・と、一つ疑問なのですが、どうやらユナ様はあれに好意を抱いておられているのですか?それに、彼女がヴァンパイアだとも気付かなかったのですか?」


わかっていたさ。

あの日、あの化物に出会った日から、ずっと。

本当は、銃を撃つ気も無かった。

でも、彼女の姿を見て・・・助けたいと思った。

あの身体能力は人間ではない。

わかっていたさ、そんな事。


「あの子は何も知らない。だから、僕はお前に手を貸す必要もない。」


「そうですか・・・。わかりました、では一人で致しましょうか。」


そう言って聖女はキサギ達の方向に歩いていく。


「ま、待て!!だから・・・。」


「待ってもいいですが、貴方に、私を止められるのですか?」


ユナの体が固まる。

動けない。手の震えが止まらない。

一歩でも動けば殺される・・・!!直感だった。


「あらあら、動けないのですか?情けないですね。女の子も守れないなんて。」


聖女はさっさと歩いた。

ユナは、その場に屁垂れ込んだ。


「さてさて・・・。では、その命をお預かりしましょうか。」


キサギは、異様な殺気に気付き咄嗟にレイを自分の後ろに隠した。


「———来ないでください。」


「いえいえ、そういう訳にはいかないのですわ。そこにいる———。」


聖女の言葉が詰まる。

レイは、その場に蹲っていた。

恐怖に震えていた。


「・・・レイ、心配しないで。私が、守るから。」


「守る・・・ね。」


聖女は小声でぶつぶつと言葉を放っていた。

キサギは、レイから、数歩前に出て、戦闘態勢をとる。


「ねぇ、貴方は・・・あの人と共にいるの?」


聖女は、ユラリと腕を上げ、イツキを指差す。


「ええ、そうよ。それが?」


「・・・ね。」


「何を言っているの?」


「貴方が、あの人の隣にいるべきじゃない!!」


聖女は態度を豹変し、余裕を装っていたとは思えない程に地面スレスレを走った。

突然の行動にキサギは体勢を崩す。


「———ッ!」


キサギは上半身だけを立て直し、聖女を地面に押さえつけた。

聖女の体は少し浮き、地面に押さえつけられた。


「———この程度?」


聖女はそうつぶやくと、地面から黒い糸が飛び出す。

キサギはそれに危険を感じ、その場から離れる。


「・・・なんだ、私の思い過ごしか。」


聖女はゆっくりと体を起こす。


「そうよね、イツキ。なんて名前でもないし・・・。」


聖女は服の土を手で叩き、糸は聖女の手の平へと戻った。

すると、集めた糸を収束させ針のように細長く紡ぐ。


「なら、目的を果たしましょうか。」


「———!レイ、伏せて!}


「・・・え?」


レイはその声に顔を上げる。


「それじゃあ、死んでもらいましょうか。」


放たれた糸は、キサギを横切りレイに向かって飛ぶ。

レイは、その糸に反応することは出来ずただ茫然と見ていることしかできなかった。


「レイ———!!」


その声と共にユナがレイに飛び込んだ。

そして、彼女を突き飛ばし、糸の軌道から反らした。


「痛・・・・い。」


「ユナ!」


しかし、ユナは完全には糸の範囲から避けることが出来ず、右目をかすった。

傷口からは血が流れていた。


「ユナ・・・・ユナ!」


ユナは右目を抑え、必死に痛みに耐えていた。


「ユナ・・・・。」



「よそ見は行けませんよ。」


キサギの体が揺れる。

聖女は、レイ達に視線が向いていたキサギの背中に糸を打ち込んだ。


「・・・こ、れは———。」


「毒ですわ。早く何とかしないと、死にますよ。」


キサギは、膝から倒れた。

糸の傷口は、黒く、黒く染まっていた。


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