因縁2
「だいぶ歩きましたね、イツキさ・・・イツキ。」
キサギは、僕の名前を呼ぶ。
「やっぱり、元の呼び方の方がいいのか?」
その慣れを感じない言い方に僕は少し皮肉を言ってしまう。
余裕が無い、そう言われればそうだ。
まだ、手が震えてる。
あの後、ミルを置いてあの国を逃げるように出た。
もう、あの化物はいなかった。
だけど・・・。
「———一体、僕は命をいくつ奪ったんだ・・・。」
数えきれない。
救えなかったのか?なんて考えが僕の体にへばりつく。
殺すなら、自分が死ね。
「———自分より、相手の命を・・・。」
「イツキ・・・イツキ!」
頭が突然後ろに反る。
僕は体勢を立て直し、後ろを見てみるとキサギが、僕の長い髪の毛を掴んでいた。
「———キサギ。」
「ずいぶんと、長くなりましたね。」
キサギはそう言いながら髪の毛をゆっくりと放す。
———そう、だった。
髪の毛、長かったんだ。
自分の見た目のことにも、気づかなかった。
「色々と、変わったんだよな。」
僕は、僕ではなくなった。
人間を、捨てたって言い方が合うのかな。
「はい、変わりました。カユラも、私も。」
———そうだ、僕はあることを忘れていた。
「キサギ、お前って結局・・・。」
大きな炸裂音が響く。
木の枝が折れた音の比ではなかった。
僕は話の途中だったが、音の方向に体を向ける。
そして、今更背には川が流れていることに気付く。
「そぼ―———あそ———ぼー!!」
その物体は、目の前に現れた。
そして、とても生物の速度だとは思えないスピードで・・・キサギに突進し、キサギは地面に倒れる。
「キサギ!大丈夫か!?」
砂埃が立ち込めており、何も見えなかった。
少しづつ、景色が晴れその全容が明らかになりだした。
「———え?」
キサギに馬乗りになっていた。
少女と言うべきか、幼女と呼ぶべきかわからないくらいの女子が馬乗りになっていた。
「捕まえた!」
そう言って女子はキャッキャと喜ぶ。
勿論の如く、キサギは状況がわからず固まっている。
「え、えっと・・・つ、つかまった?」
キサギ、その反応は仕方ない。
僕もいまいちわかっていない。
「えへへ、じゃあ罰ゲームね!」
女子はそう言ってキサギの顔に顔を近づける。
そして、そのまま首元に噛みつく。
「「———え?」」
罰ゲームと言うのもよくわからなかったが、その後の女子の行動もよくわからなかった。
首元に噛みついて、何を・・・。
「イ・・・ツキ。」
キサギはそう言いながら腕を震わせながら上げる。
そして僕は、やっと冷静な判断が出来た。
「何を。してるんだ!!」
僕は女子の体を掴み、投げ飛ばす。
「キサギ!」
彼女の息は荒く、首元から血が出てはいないものの、顔色はよくなかった。
「次は?」
女子はそう言って身構える。
また、突進をするつもりなのか。
「ああ、いいぞ。遊んでやる。」
僕はキサギから少し離れ、体を構える。
「じゃあ、行く————よ!!」
女子はそう言って突進する。
僕は、右手を突き出し集中する。
出来る限り、魔力消費を少なくして。
そして、一瞬で。
僕は、その構えた手を、右手を、突進してく女子の額にぶつける。
女子は一直線に突進してきたのでコースはすぐにわかった。
「———。」
女子は何も言わずに地面に落ちる。
脳震盪を起こしているんだろう。
「キサギ、ここから離れるぞ!」
僕はそう言いながらキサギを背負う。
・・・・。
「ああ、もう!!」
僕は、キサギを背負う手の隙間に女子を挟み、その場から離れた。
何故、逃げなきゃいけない対象を一緒に連れて行ったのか。
それは僕でもわからない。