元凶 3
僕はもどかしさを感じていた。
助けられない、僕が彼女達を助けられないから。
「———喜劇じゃな。裏切りが連鎖しておる。全く、誰の影響なのやら・・・。」
フェルミナは二人の姿を嘲笑う。
———確かに綺麗なものではない、だけど汚いものでもない。
「僕も、彼女達を助けられれば———。」
そうだ、ここで立ち止まっていられない。
僕が、何の為にここに戻って来たんだ。
「フェルミナ、僕が動けるようになる為にはどうすればいい?」
「主はせっかちだな。今は待て、時が来ればわかることだ。」
そう言ってフェルミナは僕をあしらう。
そんなフェルミナに、僕は焦る。
だが、焦っても仕方ない。
今は、その時が来るまで———。
「耐えてくれよ———キサギ、ミル!」
「キサギ!あの黒いのを攻撃していくぞ!」
「はい!」
あの黒い蠢くものをカユラから離せば、正気に戻るかもしれない。
いや、そうに違いない。
私は剣を強く握る。
体の痛みはとうに忘れた。
今は、信念だけで動いている。
キサギの動きは完璧だった。
本当にただのメイドなのか気になるものだった。
「・・・今だ!」
キサギがカユラの攻撃を弾く、そしてその瞬間を縫い、懐に潜り込む。
お許しください、カユラ様———!!
「やっぱり凄いわね、ミル。」
カユラはパッと笑った。いつもみたいに明るく笑った。
その姿に、戸惑った。
「———でも、遅いわ。」
私の一歩は、少し遅かった。
横殴りの一撃が響く。
「———うぐ。」
簡単に吹き飛ばされてしまった。
痛みはない。だが、動けない。
頭は誤魔化せても、もう体は誤魔化せないようだ。
「ミル様!?」
私は、抵抗なく壁にぶつかる。
キサギは、そんな私の助けるべくこちらに走ってきた。
そんな姿を、カユラは笑っていた。
「———何が、おかしいんですか?」
キサギはこれが頭に来たらしく、私の上半身を抱えながら、低い声でカユラを睨んだ。
それでもカユラは笑っていた。
笑う行動しか出来なくなってしまったかのように。
カユラは、笑顔のまま私達に近付く。
「———おい、おいフェルミナ!まだ・・・まだなのか、その時っていうのは!」
「そろそろ始まる、見ておれ。」
「そろそろって、今すぐにでも———。」
突然、僕の体がピクリと動きだす。
「い、今・・・動いたのか、僕の体!?」
「始まったのう・・・。ここからフィナーレじゃ。」
そのまま、ゆっくりと立ち上がる。
僕は安心した。これで、キサギ達を救え———。
「・・・フェルミナ、どうして、僕の意識はここにあるんだ?」
そうだ、立ち上がったのならば僕はあの体に戻っているはずだ。
なのに———。
「あれは神基準で造ったものじゃ。人間のような泥臭い造りではない。」
「・・・どういうことだ?」
「少しの魔力では器には入れん。神の最低レベルの魔力が無ければな。」
「だ、だけどあれは今動いて・・・。」
フェルミナは僕を嘲笑う。
自惚れるなよ、と言いたげに。
「なければ採る、それが人間じゃ。今あの器の所有者は主、つまり———。」
僕の体は、一気にカユラの元まで走り出す。
カユラがそれに気付き、黒く蠢くもので守ろうとしたが、遅かった。
その一撃は、カユラに及んだ。
「「———え?」」
その一撃は、カユラの横腹を裂いた。
紅い鮮血が降る。
僕は、僕の体は・・・それを喜ぶかのように咆哮していた。