道 7
・・・おかしい。さっきから平行に歩いている気がしない。
違和感の連鎖。
疲れているわけじゃない。
だけど、体は重りが付いたかのように重たかった。
「どうだ?その身体には慣れたか?」
「いや・・・そうでもないみたいって、え?」
僕は振り返る。
僕の後ろにはどこかで見たことがある目つきの悪さ。
天使と言いながらやることは悪魔のあいつにそっくりだ。
「どうやら、面倒な説明は不要。と言いたげじゃな。まぁいい。ワシは主に言わねばならぬことがあって来たのだ。」
———やっぱりフェルミナか。
僕は体をゆっくりと立ち上がらせ、フェルミナに正面から向き合った。
そして、僕はあることを思いついた。
今なら、反撃できるのでは———。
「不穏なことを考えるな。」
彼女はそう言って僕の腹部より下にパンチを浴びせる。
僕は鈍っていた神経全てが痺れる感覚に襲われた。
「———!!」
声にならない。
僕はそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「何を寝ている。ここからが本題じゃぞ。これは挨拶変わりだ。」
「本・・・題?何を僕に伝え忘れているんだ?」
「それは、身をもって学べ。なに、簡単には死なないさ。」
フェルミナは僕の首を掴み、外に放り投げた。
僕は声も出ず、そのまま地面に激突した。
「———痛く、無いけど。死なないってこの事なの・・・。」
獣の唸り声。
僕は体を起こし周りを確認した。
囲まれていた。獣達は僕の逃げ道を防ぐかのように周りを歩き出した。
「イツキ、そいつらを殺せ。なに、手刀でも拳でもそいつらを殺せる。」
「そんなアバウトな・・・。」
獣達は連携をとるように叫び、僕に一斉にして飛びかかった。
僕は言われた通り、手を刀のように振り回した。目は瞑ってしまった。
生温い感覚が腕から体へ伝わった。
目を開けると、僕の体は真っ赤に染まっていた。
辺りには獣の死骸が転がっていた。
「ふむ。まぁ初めにしては綺麗なものか。」
いつの間にかフェルミナは僕の前に立っていた。
「・・・言われた通りしたけど、これは何なんだ?性能チェックか?」
「それもある。だが、本当の目的はな・・・これじゃ。」
フェルミナはそう言いながら獣の死骸を手に持つ。
そしてそれを僕の前に突き付けた。
「食え。」
「え?」
「主はガス欠なのじゃ。これを食えばある程度元に戻る。」
彼女に手渡された獣の頭を僕は見つめる事しか出来なかった。
そして、口の中の唾を飲みこみ、それを手に持った。
「・・・いただだき、ます。」
目を瞑ったまま、僕は獣に齧りついた。
口の中に鉄の味が広がる。
今にも吐き出しそうな不味さだった。
「く、食ったぞ。それで、この後は?」
「体を動かしてみろ。それでわかる。」
僕は言われるがまま、立ち上がった。
「・・・あれ?」
めまいが無くなっていた。
体が軽くなった。
変化は目に付くものばかりだった。
「その身体は魔力のようなもので動いている。他の生物を食うことでそれを補充できる。それが唯一のエネルギーだ。」
そう言ってフェルミナはふっと消え去った。
僕はその場に立ち尽くしたまま、あることを考えた。
他の生物を食う。
それはこれまでやってきた『食事』の事なのだろう。
ただ、食べ物が変わっただけ。
———それだけなのに、手が震えるのは、何故なんだ。
僕は足に力を入れた。
すると驚く程の飛躍力が僕の足が生み出した。なのに、これに既視感を感じる。
僕は元居た階にひらりと戻った。
そして、僕は歩く。
血は、渇いてもまた広がった。