道 6
「・・・そうか、カユラは行ったのか。」
キサギからこれまでの話を聞いた。
キサギ、ミル、そしてこの国のこと。
何も知らなかった。知らずに僕は踏み込んでしまった。
触れられたくないものに僕は土足で踏み込んだ。
「それで・・・イツキ様その姿は・・・?」
「イツキでいいよ。・・・一言で説明できないことなんだけど・・・。」
僕はしばらく考えた後、キサギの目を見て、ある事実だけを伝えた。
「もう、僕は僕じゃなくなった。っていうのかな。」
キサギは顔色を変えず、僕の話を聞いた。
「詳しくは聞かないんだな。」
無言の同意、と言ったものだろうか。
「・・・私は、貴方が帰ってきた。それだけで十分です。」
「何か言ったか?」
ドンという何かが落ちる音がした。
僕とキサギは同じタイミングでその方向に振り向いた。
そこにはベットから転がり落ちているミルがいた。
「い・・・かなければ早く、カユラの元へ———!!」
ミルは足を動かそうとするが、立ち上がろうとすると足が重力のままに落ちる。
それでもミルは諦めず、何度も何度も立ち上がろうとした。
「・・・なぁ、お前は何でそこまでしてカユラを助けたいんだ?確かに、お前の姫様ってのはわかる。でもそれだけの為にこんなに必死になるのは、何故なんだ?」
僕は、思ったことを彼女にぶつけた。
ミルは僕の質問が想定外だったらしく、射抜かれたかのようにポカンとしていた。
しかし、すぐにまた険しい顔に戻った。
「そんなことに理由は必要ない。私が兵士で、カユラが姫だということ。それで、それだけで充分だ。」
「理由がない・・・ね。理由なしにカユラを助けたい、と。———なら、早く立て。カユラを助けに行くぞ。」
僕はミルに手を差し伸べる。
「これは———何のつもりだ・・・!」
「別に、理由はないさ。」
ミルは僕を睨みつけ、僕の手を叩く。
気合を入れるかのように叫び声を上げながら体を起こし、立ち上がった。
「私は準備万端だ。早くしないと・・・置いていくぞ!」
ミルはそう言いながら体を痙攣させていた。
もう立っているだけで精一杯の筈だ。
「ミル・・・その身体では・・・。」
そう言おうとしたキサギを、僕は止めた。
「わかった。なら早く行こう。時間は、もうないからな。」
「ああ・・・その通りだ。い・・・くぞ。」
ミルはそう言いながら意識を落とした。
彼女にはもう動く力は残っていなかった。
「・・・キサギ、ミルを頼む。」
僕はミルを抱え、ベットに戻すとそのまま部屋を出た。
ミルを連れていくわけにはいかない。
彼女は、この問題に深くかかわっている。
そして、もう誰が誰なのか判別できないほど衰弱している。
「・・・また、私を置いて行くのですか。」
キサギが僕の後を追いかけてきた。
彼女は顔を下に向けていた。
僕は何も言えなかった。
何も言えずに、僕はその場で立ち止まった。
だが、また歩き出す。
———理由なんて、なかった。