表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/51

道 6

「・・・そうか、カユラは行ったのか。」


キサギからこれまでの話を聞いた。

キサギ、ミル、そしてこの国のこと。

何も知らなかった。知らずに僕は踏み込んでしまった。

触れられたくないものに僕は土足で踏み込んだ。


「それで・・・イツキ様その姿は・・・?」


「イツキでいいよ。・・・一言で説明できないことなんだけど・・・。」


僕はしばらく考えた後、キサギの目を見て、ある事実だけを伝えた。


「もう、僕は僕じゃなくなった。っていうのかな。」


キサギは顔色を変えず、僕の話を聞いた。


「詳しくは聞かないんだな。」


無言の同意、と言ったものだろうか。


「・・・私は、貴方が帰ってきた。それだけで十分です。」


「何か言ったか?」


ドンという何かが落ちる音がした。

僕とキサギは同じタイミングでその方向に振り向いた。

そこにはベットから転がり落ちているミルがいた。


「い・・・かなければ早く、カユラの元へ———!!」


ミルは足を動かそうとするが、立ち上がろうとすると足が重力のままに落ちる。

それでもミルは諦めず、何度も何度も立ち上がろうとした。


「・・・なぁ、お前は何でそこまでしてカユラを助けたいんだ?確かに、お前の姫様ってのはわかる。でもそれだけの為にこんなに必死になるのは、何故なんだ?」


僕は、思ったことを彼女にぶつけた。

ミルは僕の質問が想定外だったらしく、射抜かれたかのようにポカンとしていた。

しかし、すぐにまた険しい顔に戻った。


「そんなことに理由は必要ない。私が兵士で、カユラが姫だということ。それで、それだけで充分だ。」


「理由がない・・・ね。理由なしにカユラを助けたい、と。———なら、早く立て。カユラを助けに行くぞ。」


僕はミルに手を差し伸べる。


「これは———何のつもりだ・・・!」


「別に、理由はないさ。」


ミルは僕を睨みつけ、僕の手を叩く。

気合を入れるかのように叫び声を上げながら体を起こし、立ち上がった。


「私は準備万端だ。早くしないと・・・置いていくぞ!」


ミルはそう言いながら体を痙攣させていた。

もう立っているだけで精一杯の筈だ。


「ミル・・・その身体では・・・。」


そう言おうとしたキサギを、僕は止めた。


「わかった。なら早く行こう。時間は、もうないからな。」


「ああ・・・その通りだ。い・・・くぞ。」


ミルはそう言いながら意識を落とした。

彼女にはもう動く力は残っていなかった。


「・・・キサギ、ミルを頼む。」


僕はミルを抱え、ベットに戻すとそのまま部屋を出た。

ミルを連れていくわけにはいかない。

彼女は、この問題に深くかかわっている。

そして、もう誰が誰なのか判別できないほど衰弱している。


「・・・また、私を置いて行くのですか。」


キサギが僕の後を追いかけてきた。

彼女は顔を下に向けていた。

僕は何も言えなかった。

何も言えずに、僕はその場で立ち止まった。

だが、また歩き出す。


———理由なんて、なかった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ