道 5
「さて・・・と、ここまで来たのはいいが。ここ、どこだ?」
ゲートの先は半壊した建物の中だった。
「ここに何かあるのか?それとも適当か?・・・どっちも考えられるな。とりあえずここらを探索するか。」
僕はとりあえず瓦礫を手で払いのけた。
すると、瓦礫の下から本が見つかった。
その本が何を表すのか僕にはわからなかった。
「・・・と、速くいかないとカユラが危ないんだった。そういやこの体ってちょっとした特別なものなんだよな。・・・そっから飛び出しても、死なない・・・よな。」
僕は壊れた壁から見える側面の景色を見つめながら、自分にそう暗示した。
「下を見るから怖いんだよな。なら下を見る暇もなく飛べば問題なし。問題無しなんだよ。」
僕は体を前のめりにし、手を地面に付ける。
地面が揺れる。
パラっと粉塵となった瓦礫が、僕の顔を通り過ぎた瞬間。足を踏み込んだ。
僕の体は、僕の予想を超えたスピードで移動した。
そして外に飛び出した時には、遅かった。
どうやら僕が居たのは塔だったらしい。
そして、結構高い塔だ。
「・・・空が、凄く綺麗ですね。とても、とても心が———。」
この空のように消え去りそうです———。
「・・・なんて言えるかぁぁぁ!!」
僕は身を縮め、衝撃に備えた。
目の前に屋根が広がる。
このまま屋根に激突・・・。
気の抜けた音と共に僕の視界は一気に暗くなった。
「・・・あれ?これもしかしてこのまま止まらないの?」
僕はそう思い体を広げた。
するとタイミングよく壁に頭が衝突した。
「・・・あれ、屋根は貫けた・・・じゃん。」
僕はそのまま地面に倒れ込んだ。
あ、こういうのを出オチって言うのかな。
「———ですか?大丈夫ですか?」
微かに聞こえる声。
その声は何処か聞き覚えのある物だった。
体が持ち上がる。
・・・僕は、何か柔らかい感覚に包まれた。
「・・・ふえ?」
目が覚めた。
どうやら僕はあのまま眠ってしまったらしい。
そこまで疲れが溜まっていたのだろうか。
「目覚めたのですね。」
声の方向に顔を向けるとそこにはキサギがいた。
「ひさし「どこか痛むところはありますか?」
彼女はそう言って僕の隣に座った。
・・・気付いてないのか?
僕はそう疑問に思った。
するとキサギは僕の腕を持ち上げ、傷が無いかを確認し始めた。
「な、何をしているんだ!?」
「急に動かないでください。今、体に傷が無いか確認しているんです。・・・もう、誰も死なせたくないんです。」
「死なせたくない・・・って。」
「私は、大切な人を失いました。死に向かって歩く彼を止めることが出来なかった。私は、
彼から色々なものを貰いました。大切なものをたくさん・・・。ですが、私が彼に恩を返すことは叶いませんでした。」
そう言ってキサギは僕の腕を優しく撫でる。
キサギの手の柔らかさが腕に伝わる。
「ですから、せめて目の前にある小さなことでも、助けたいと私は思っています。彼のように、他の人の為になることを・・・。」
キサギはそう言いながら僕の服を掴んだ。
「次は胴の方を・・・。」
「ま、待て待て待て待て!!そこまでしなくてもいいから!」
「いえ、駄目です。どんな小さなことで見逃せば大きなことになるのです。さぁ大人しく・・・。」
「き、キサギ!?待てって!落ち着け、落ち着けよ!?」
「待ちませ・・・。何故私の・・・名前を?」
キサギは突然僕の腕を離した。
そして、何秒か静止した後、その顔は一瞬にして赤く染まった。
「い・・・つき?」
彼女はそうたどたどしく僕にそう尋ねた。
「ああ。ただいま。」
僕がそう返答するとキサギは顔を背けた。まるで僕に後ろめたいことがあるかのように。
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
僕はキサギにそう尋ねた。
キサギは顔を背けたまま、何も返事をしなかった。
「お、おい。本当に大丈夫か?僕よりお前の方が危ないんじゃないか?」
僕はそれでもこちらを向かないキサギが少し怖くなり、力を込め、彼女をこちらに向けさせることができた。
キサギの顔は目が晴れ、涙の跡が顔に通っていた。
「き・・・さぎ?どうして泣いているんだ?」
「———泣いていません。それよりも・・・。」
キサギはそう言って立ち上がり、服を手で叩いて直し、顔を上げ、僕を見つめた。
「おかえりなさい。———イツキ。」
彼女のその親し気な口調は僕の中のもやもやとした煙を取っ払ってくれた。
僕は息を吸い込み、当たり前のこの言葉をキサギに返した。
「———ただいま、キサギ。」
僕は、今、ここに生きている。
そんな実感を得られた瞬間だった。