道 4
「さぁ、御膳立てしてやったぞ。後は人間が死ぬだけだ。」
僕の目の前には槍。
これを、腹に刺せば終わりだ。
だがわかる。
これを刺せば僕は消え飛ぶだろう。
「・・・これを刺して、僕が生き残る可能性は、どのくらいある?」
「ほぼ0だ。もしも、の場合があるかもしれんが所詮人間、すぐにその魂は消えるだろう。」
それはつまりどのみち死ぬってことだろう。
「じゃがしかし・・・もう暫く時間をやろう。ほれ、どうやら奴らは諦めたわけではないらしいぞ。」
その指の指す方向にはカユラとキサギが写っていた。
「・・・あのメイドも変わった、だがしかしだ。人間、どこまで行こうと人間だ。何の力も持たない中途半端なものだ。」
フェルミナは立ち上がり、槍を引き抜く。
そして僕の近くまで歩いてきた。
「最期じゃ、わしを楽しませろ。」
槍が、僕の体を貫いた。
声すら出ない。
何もかも消え去る、そんな感覚。
「おいおい、生きたいんだったら蹴落とせよ。楽だぜ、助けるよりよ。」
自分の声なのに、自分じゃない。
これが、走馬灯なのか?
人格が壊れていく過程なのか?
「そもそもお前に目的はあんのかよ。何か、死ぬくらいに成し遂げなきゃいけないことが。」
「不器用なんだよ。初めから言葉に甘えてりゃ楽だったんだぜ?」
勇者。
聞こえはいいが、僕には無理だ。
聞こえがいいのが無理だ。
「なんだ、考え無しか。じゃあ、言ってやるよ。お前は・・・欲が深すぎるんだよ。」
「欲・・・そんなもの、僕にはない。だからお前の質問に答えられない。」
「いいや、違うね。欲が多過ぎて溺れてるんだ。自分も、あいつらも守りたいと思ってるからだ。」
「うるさい。それを欲と言うのは勝手だ。僕は自分勝手、なのにその勝手も果たせない半端者。そんなクズだよ。」
目の前が、段々と黒ずんでいく。
これで終わりか。
短い・・・でも楽しい人生だったな。
カユラ、ミル・・・それとキサギ、達者で。
「いいねいいね!そういうのいいね!このまま食い殺そうと思ったけど気が変わった。さぁ、この手を握れ。お前に力を貸してやる。」
もう殆ど黒くなった視界の中、僕は残った力を振り絞って、右腕を上げる。
その手に、温かい感触が広がる。
すると黒く濁っていた視界が晴れた。
僕の視界の先には僕と同じ顔の人間がいた。
「ん・・・あれ?えっと、何で寝てるんだ、僕。」
僕は目をこすりながら起き上がる。
大きな笑い声が聞こえ、その方向へ顔を向けると、少女が何故か腹を抱え、地面に伏していた。
「何を笑っているんだ?」
僕がそう尋ねるとフェルミナはフッと笑いを止め、真っ直ぐに僕を見つめた。
「ワシにも逆らい、カユラにも逆らい、自分まで逆らいながら・・・まるで当たり前のように運命にまで逆らうとはな。恐れいった。というところだ。」
「何を言っているのかわからないけど、僕はつまり可能性の低い方を成功させたんだな。」
ああ、そうだ。
フェルミナはまた笑い出した。
どうやらそんなに面白い事だったらしい。
「・・・ああ、そうそう。そこにある人形、主にやろう。なに、楽しませてもらった礼じゃ。遠慮せず持っていけ。」
フェルミナはそう言ってさっき自分が中に入っていた人のようなものを指さした。
「それを使えばカユラの元へと行ける。早くしないとカユラが死んでしまうぞ。」
僕は人形に近寄った。
そしてこの手で、人形に触れた。
「ってうわ!?」
人形に吸い込まれ、視界が一気に変わる。
「・・・あれ?」
「最初は慣れるまで時間がかかると思うが・・・まぁいいか。ほれそこから行け。」
目の前で門が現れ、開かれた。
僕は必死に立ち上がり、その門へと走った。
「・・・行ったか、しかし・・・主は本当におかしなやつだ。死ぬか、死なないかの二択でそれを踏み躙ってそのもう一つの選択を作り出すとはな。」
彼女は門を自分の手で閉めた。
「そんな簡単に人を捨てるとはな。」