道 3
「———あ、れ?」
気付いた時にはベットの上だった。
身体は痛み、起き上がることが出来なかった。
「目覚めましたか。」
声の方向に首を傾けると、そこにはキサギが立っていた。
「———ここ、は?」
「城の中の一部屋です。どうやら、化物はこの城には一体としていないようです。」
「城・・・カユラ、カユラは!?」
「ここにいるわ。あんまり動かないでね。傷が広がっちゃうかもしれないから。」
そう言ってカユラは私に向かって軽く手を振っていた。
色々と聞きたい事はあったが、私は睡魔に襲われ、また眠りについた。
「———眠った、のよね。ミル、ごめんね・・・。」
カユラは眠ったミルの前髪をそっと撫でた。
「———行くつもり、ですか?」
カユラの笑顔が崩れた。
その手は、震えていた。
「ええ、私にはその義務があるのです。スリア王妃の姿を模した化物が国を混乱に貶めているのです。それを見逃すわけには・・・。」
「死にますよ。今回こうして命があるのも幸運だったからです。」
キサギの言葉が刺さる。
確かにその通りだ。
あの時、神が舞い降りたかのような奇跡が無ければ私とミルは死んでいた。
「・・・それでも、行かなければならないのです。」
「———従者を置いて、死にに行くのですか。」
キサギの声は震えていた。
彼女が平常を崩すところを初めて見た気がする。
イツキ・・・貴方は愛されているのですね。
「なら、残念ね。ミルは、私の従者ではないわ。それに私はずっと嘘をついてるの。」
あの日、国が崩壊した日。
その日は、私にとって大切な日でした。
「私は、もうお姫様じゃないの。悪い悪い咎人なのよ。」
私が、監獄に繋がれる日でした。
「多分、この国が崩壊したのは母の怨念。怨念だけで国が崩壊したなんておかしいけどね。」
母は、この国に捨てられた。
簡単に言えば飽きられた。
国王は隠し子を作った。
国王は愛人を大層気に入り、側室にしたいと考えた。
しかし、母という存在があり、また本人が誠実政治などと言うもので国民の士気を高めていた為、愛人が発覚、なんてことは出来なかった。
だから、国王は母を捨てた。押しつけにもほどがあるような反逆罪を言い渡し、塔に幽閉した。
それからしばらくして、母は死んだ。
私は、その最期の姿を見ることが出来ず、ただ紙切れ一枚のみで自分の母の死を受け入れなければならなかった。
そして、その数年後。
王は私も邪魔だと判断し、母と同じ反逆罪で監獄行となっていた。
私が邪魔な理由の一つは、その隠し子が、女性であるということ。
そして、今は男性と偽り、兵士として身を隠しているからだ。
———そう、つまり・・・。
「キサギ、ミルが起きたら・・・ここから逃がしてあげてね。私の事は、考えなくてもいいから。」
「———どうしても、行くんですね。」
「ええ、これは私の・・・イツキや、この国の兵士達が命を捧げた戦いなの。嫉妬に塗れた憎悪劇は、私が終わらせるわ。」
「もう・・・そんな事しなくてもいいんじゃないんですか?貴方は、もう十分苦しんだじゃありませんか。」
キサギの言いたいことはわかる。
でも、彼女は一つ、勘違いをしている。
私は、また笑顔でキサギにこう返した。
「私は、この国が好きなの。だから、この国を救いたい。例え国に捨てられても・・・私はこの国を愛しているの。理由は・・・それだけ。」
「・・・優しすぎるんですよ、貴方も・・・あの馬鹿も。」
そう言ってキサギは部屋を後にした。
私は、ミルへ近づいた。
「———ずいぶんと、勇ましい妹ね。頼もしいわ。」
私は、ミルの剣を手に取り、部屋を後にした。
母の罪を・・・赦す為に。