転生・12
力一杯に走った。
息は切れ、足はもつれそうになりながら、前のめりで私は走り続けた。
手を引いているミルは、ひたすらに直進を続けていた。
「あ・・・光。」
目に写った光は眩しく、思わず目を狭めた。
光の中へと走ると、そこにはキサギの姿があった。
「キサギ———イツキ、イツキが!!」
キサギは何も言わず、ただ黙り込んでいた。
「ミル!今からならまだ間に合います!今すぐにでも・・・。」
「カユラ、わかって下さい。彼は、貴方の為に死んだのです。」
「でも・・・。」
ミルは、カユラの肩を掴み、自分の思いを言葉にしないように必死で我慢するかのように・・・。
「わかってください!!彼は、私達を助けた、その命も残り少ないのにも関わらずにです!———ですから、私達は進み続けなければならないのです。それが、彼の命を無駄にしない為の最善策なのです。」
わかってるそんなこと。
でも、私の理性はもうパンクしそうなのだ。
まともに物事を考えることも出来ない。
頭の中で駆け巡るのは、『人殺し』だけだった。
「カユラ様、これを。」
キサギは、私に黒く染まった紐を私に手渡した。
「これ、は———?」
「イツキの、遺品です。彼はそれを外せば自分の身が滅ぶことがわかっていながら・・・。カユラ様を助ける為に、運命に反逆しました。その結果、彼は———。」
「それ以上は・・・いいわ。」
カユラは、その黒い紐で髪を一つに束ねた。
彼女の考えは、スッと風のように変わった。
———イツキは、私を助ける為に迷わなかった。なら、私が迷ってどうする。
「ミル、行きましょう。迷わない、それが私達に出来る唯一の事なのだから。」
「———カユラ、私は、貴方と共にいます。それが、私の責務です。」
ミルはそう言って顔を上げた。
そして二人で、お互いの顔のおかしさに笑みが零れた。
眼の周りが赤く染まって・・・不細工だなぁ。
私も人の事は言えない。
「カユラ様・・・私は———。」
「キサギ、貴方はここで待っていて。イツキが帰って来た時、誰もいないと寂しいでしょ?」
カユラはキサギにそう言い残し、足を踏み出した。
その心に、大きな重りを抱えたままに。