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第9話~決別

数時間後、目を覚ましたレイブンは自分の左足がなくなったことを知った。


「何故死なせてくれなかった。殉職なら借金を返して余りあった。こんな中途半端に生き残って何になる!」


傷の痛みに顔を歪ませ、唸るように殺してくれとカーズに訴えた。

左足をなくし戦えなくなったレイブンは第二部隊には居られない。リタイアだ。雀の涙の退職金を貰って出て行かねばならなかった。


「済まなかった」

だったら何故俺を庇ったんだという言葉をカーズは飲み込んだ。


「独りにしてくれ。出来るなら二度と俺の前に姿を見せないでくれ」


廊下に直接敷かれた布団に顔を押し付けレイブンは圧し殺した声でカーズを拒絶した。カーズはレイブンから逃げるように第二部隊の本部に戻った。


どんなに人が死のうとも、変わらずに世界は回る。夜が訪れればまた、下級から中級妖魔はいつも通り、いやいつも以上に現れた。カーズたちは通常業務に戻り、妖魔や宿主を射殺する。


仕事が終わると毎日のように病院へ足を運んでは、入り口で立ち尽くした。殺してくれと、姿を見せないでくれと懇願したレイブンが脳裏に浮かんで中へ入ることは出来なかった。



「結局、レイブンは1ヶ月後退院して第二部隊を退役した。退役したその日まで俺と一度も顔を合わせないまま、レイブンは第二部隊を去って行ったよ」


酒場はしんと静まり返った。カーズは苦笑してグラスを傾ける。


「 …… そんな、あんまりっす」

静かになった中、ぽつりと若い隊員ニックが声を震わせた。


「レイブンさんが怪我したのって、隊長のせいなんかじゃないっすよ!なのに、そんな別れかたってないじゃないっすか!レイブンさんも、何なんっすか。自分が隊長を庇って左足をなくしたんじゃないっすか!」


ニックは立ち上がり悔しそうに拳を握った。


「あいつもやりきれなかったのさ。殉職なら多額の弔慰金で借金を返せた。しかし片足をなくしての退役じゃあ、僅かな退職金しか出ないし再就職もままならねえ」

もし再就職が出来たとしても、第二部隊ほど高額な働き口などない。


「でも!」

更に言い募ろうとしたニックの肩を、隣のウィークラーが押さえて座らせた。


「まあ、落ち着けや」

「隊長も人が悪ぃな」


にやにやと笑う隊員たちをニックは見渡して憤慨した。自分が笑われなければならない理由が分からないし、マスターまで同じように笑っているのは何故なのか。


「どういうことっすか!」

「この話にはまだ続きがあるんだよ」

またカーズがちびりとやったグラスを置くと、氷がくるりと回転した。



レイブンの退役が決まった時、カーズはギルバートの元へ直談判に行った。例え退役が免れないにしても何とか退職金だけでも上乗せ出来ないかと思ったのだ。


「お前の言い分はよく分かる。うちの隊にはずっと付き纏ってきた問題だからな。歴代の隊長が再三掛け合ってきた問題なんだよ」


ギルバートは疲れた顔で溜め息を吐いた。


「俺ら第二部隊は捨て駒だ。民間人に被害が及ばない為の人間の壁。壊れれば補充すればいいくらいの認識で、餌さとして金をばら撒く。給料の高さは勿論、殉職した時の弔慰金が多額なのも餌だ」


この二つを餌さとしてぶら下げれば死亡率の高い部隊にも人が集まる。結果、自分の命を省みないどん底の人間ばかり集まるのだから、宿主を殺させるという汚れ役をやらすのも、人間の壁として使うのにも都合がいい。


「二つの餌は十分に役目を果たしてる。退役した人間にも多額の金を払うメリットが上の奴らにはねえ。悔しいがな、本当に『消耗品』なんだよ。第二部隊(おれたち)は」


何度も議題に上げては一蹴された。ギルバートがどんなに反論しても口の達者な議会の連中には歯が立たない。


「俺には無理だった。元々頭を使うのはからきしだ。腕っぷしの強さぐらいしか取り柄がねえからな」


ギルバートは立てた親指を自分の胸元に当てた。


「ここまで上がってこい、カーズ。ここまで来て初めて上の奴らには文句を言える土俵に立てる。それより先はお前次第だ。変えたければお前が変えろ」


病院で世の中の理不尽を思い知ったカーズに沸き起こったのは怒りだった。税金泥棒だの役立たずだのはいい。『消耗品』だけは許せなかった。


「必ず上がってみせます。必ず俺たちの命の重みを思い知らせてやります」


この日を境にカーズは戦い方を変えた。自分が妖魔を倒しにいく戦い方から、戦いを俯瞰して妖魔を分析し自分以外の隊員が死なないこと優先する戦い方へと。

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