起
bbbbbbbbbbっば
「グラウンドを5分で10周して来い、誰か一人1秒でも遅れたら1周追加するぞ、よーい始め!」
顧問がそう言い放つと同時に、部員達は一斉に走り始めた。
一人でも遅れを取ると、連帯責任となり、1周追加され、苦しい思いをして、周りに迷惑をかけ、目の敵にされる。
リスクを背負っているので、遅れるわけにはいかなかった。
青山幸一は、とある高校のサッカー部に所属する高校2年生で、サッカーは小学生時代から続けており、中学時代ではサッカー部では主将であり、体力と技術に自信があったので、高校でもサッカー部に所属することにした。
幸一の高校のサッカー部は、弱小サッカー部で、幸一は1年の時からレギュラーに選ばれていた。
幸一は、毎日部活の練習をそつなくこなし、この日の練習もそつなくこなした。また、他の部員達も、遅れを取らずに、グラウンドを10周し終えた。幸一は、プレッシャーとは無縁の生活を送っていた。
「ありがとうございましたっ!」
グラウンドに一礼すると、急いで着替え、校門前に集まらなければならない、幸一は部室に行き、まるで雨に打たれた様にずぶ濡れのユニフォ-ムをスポーツバッグに強引に押し込み、制服に着替え、部室を飛び出して校門へ駆けていった。
部員達は、顧問が予定していた時間に間に合うと、即座にスポーツバッグと学生かばんを地面に置き、顧問を囲んで輪を作った。
顧問は、今後の予定や部費について話すと、即座に部活を解散させた。
幸一は、数分前から腹痛を抱えていた。部活が解散すると、一目散にトイレへ駆け込み、10分ほど時間を掛けて用を足し、その後、学校を出て、いつもの様に下校していた。
幸一は、この時自分が奇妙な体験をすることなど全く考慮してはいなかった。
幸一がいつもの様に下校していると、奇妙な雰囲気を感じ取り、思わずその場で立ち尽くした。
何者かが荒い鼻息を出してこちらに向かってくる。
あたりは闇に包まれていてその〝モノ〟の正体は正確に確認する事は困難だったが、電信柱の蛍
光灯に照らされ、その〝モノ〟の正体を正確に確認する事が出来た。
その〝モノ〟は70代もしくは80代の高齢者の男性であり、その男性は、とてもやつれていて、何故か体中血まみれであった。
そのままほおっておいても出血多量で死ぬだろうと思うほどの量だ。
そして、まるで何かから逃れるかの様にこちらに向かってくる。
幸一の体はいつの間にか恐怖で動けなくなっていた。
そして、その男が幸一の目の前に来ると幸一の胸倉を掴みこういった。
「もうすぐここにテンサイが来る」
そう言うと、その男はその場で倒れた。
「おい.....しっかりしろよ....おい.....おい!!」
幸一が呼びかけてもその男は反応しなかったので、携帯電話で救急車を呼ぶことにした。
「あの...老人が血だらけで倒れているんです!このままほおっておいたら.......あれ?」
ついさっきまで老人が倒れていた場所に目をやると、老人の姿が無かった。
男が倒れた場所は、幸一が通っている高校の近くだった。
「すみません、僕の勘違いでした.......。」
そう言うと幸一は電話を切り、その後、いつも通り通学路を歩いて、無事に帰宅する事ができた。
幸一は家で、様々な事を考慮した。
あれはなんだったのか、男は何を伝えようとしたのか、〝テンサイ〟とは何だったのか。
あれは確かに幻覚では無かった。なぜなら、その場には男の血痕が残っていたからだ。
結局、その事は考慮したところで結論が出ないので、幸一は考えるのをやめた。