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 現実から逃げる手段、それは探してみると案外たくさんあることに気づく。

 例えば、小説。

 例えば、漫画。

 例えば、ゲーム。

 あるいはインターネット。あのころはあるサイトに面白い動画が満載で、そこからいくらでも楽しいことに逃げられた。映画や、アニメもそうだった。特にアニメはニュースで話題になるくらいの人気だった。とにかくわたしたちの生きていた時代には、逃げ道がたくさん用意されているように思えた。


 その極めつけの逃げ道が、死だった。

 現実から逃げきる片道切符。それを切ったらもう戻れない。だけどなぜかわたしたちの世代にはそれを果敢にやってのける人が多く、彼もまたその一人だった。


 わたしが彼の訃報(ふほう)を聞いたのは、ニュースを見てた夕ご飯の席のこと。


「ねえ、この子同じ小学校の子じゃない」

「えっ」


 母が目ざとく指摘したところを見ると、そこにはたしかに知ってる名前があった。つい二ヶ月前に卒業式で別れたはずの、名前が。


 あれが今生の別れになろうと、誰が気づいたのだろう。

 わたしは少しだけ、おどろいた。だけど、すぐにこうも思った。わたしは悪くない。しょせん他人ごとだ。隣町で殺人事件が起きたようなものだと思えばいい。それもテレビ画面の向こう側のことだから、よほどでなければ現実味を感じないし、


 きっと、誰かがなんとかしてくれる。

 わたしはそうだと信じ込んで、事件から目を背けていた。別に彼とは深く関わったわけじゃないのだから。

 そう思ううちに、事件はわたしの頭のなかを通り過ぎた。


 はずだった。


 ヘンなことが起きたのは、高校に入ったころだ。思春期で、反抗期にさしかかっていたからかもしれない。

 でも、あのとき確かに言えたのは、『誰かに見られている』ような感じがしたこと。


 とりわけ、

 授業中に携帯弄ってるとき、

 テスト勉強のフリして漫画読んでるとき、

 親に嘘を吐いたとき、

 約束を破ったとき、


 あるいは、

 校内のいじめを見て見ぬフリをしたとき。


 わたしは、わたしの背中に誰かが立っていると感じるようになった。

 正しく言えば、見られている、という気がした。

 それは、意中の相手を眺めるものでも、いやらしく舐め回すようなものでも、誰かをハブろうというものでもなければ、ただなんとなくこっちを見ていたという気配でもなかった。


 非難するような、視線だった。


 ひょっとしたら、思春期独特の自意識過剰におちいっていたのかもしれない。だけど、わたしは怖かった。どうすればいいのかわからなかった。だから、その目線から逃げようとさらに目の前のものに入れ込んだ。どんどん逃げた。

 すると悪戯を咎めるような、いや、告げ口をするような口調で、誰かが耳にささやくのだ。


 逃げられると思うなよ、と。

 その言葉は、彼の声で語られていた。

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