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女神に強制的に旅に出る呪いをかけられました。

「勇者キンタ、起きてください」


 キンタはその声を聞き目を覚ます。

 キンタの目に最初に見たのは青い空であった。目を左右に動かしここが何処なのかを確認する金太。

 しかし目に映るのは長い草ばかりだ。キンタは怠さを感じながらゆっくりと体を起こした。


「何処なんだろう?」

「おはようございます」


 耳元で誰かがそう囁いたのに驚き、金太は驚き飛びのいた。


「あなたは……?」

「はじめまして勇者キンタ……」


 キンタの後ろで長い金髪の女性が笑いながら立っていた。


「私は女神、あなたをこの世界に呼んだものです」

「はっどういう事ですか?」


 いきなり女神と名乗った女性を警戒し、金太は顔をしかめる。

 しかし女神が手を叩くと煙突のある木造の家が現れ、キンタはここが現実世界でない事を理解した。


「とりあえず中に入って話しましょう」


 女神に手を引かれキンタは家に入った。



 家は机一つに椅子二つと簡素なものである。

 女神とキンタは向かい合うように椅子に座った。


「この世界はコチン。分かりやすく言うと並行世界です」

「並行世界?」

「はい、ここはあなたのいた地球とは違うもう一つの地球です」


 女神はため息をつき淡々と説明し始めた。


 この世界の名はコチン。大陸の位置、海、などが全て一致しているもう一つの地球。

 現在コチンは魔王サウザンドズーリ率いる魔王軍によって支配されている。

 人々は魔王軍に対抗する為、真冬の朝の幻夢というレジスタンスを組織した。


「そして真冬の朝の幻夢のメンバーは魔王と戦いました」

「それで……?」

「彼らは」女神はそこで言葉を切り、小さく「負けました」と言った。


「魔王サウザンドズーリは強かった。彼に戦いに挑んだ者は洗脳され魔王の手下になりました、しかしその中で洗脳され無かった人がいます」


 女神の手からホログラムの様な光が飛び出る。その光には1人の男が映し出されていた。

 映像の男は右手に剣を持ち叫んでいる。


「これは……僕?」

「そうです、彼はこちらの世界の貴方です。こちらではオティンコスと呼ばれていました」


 映る男の顔は確かにキンタと同じだった。


「魔王はオティンコスを殺しコチンを支配しました。ですが彼の野心はとどまる事を知らず、並行世界の地球も支配しようとしているのです。そして先程魔王は地球へ繋がる扉・時空門(マンホール)を作り、ある魔法を地球に向けて放ちました」

「もしかしてあの流星群は……」

「あれは流星群ではありません。魔王が地球を支配する為に放った極大破壊魔法・空穿ツ金ノ射聖(ジーカーハーツ・デン)です。今は私がコチンと地球を繋ぐ時空門(マンホール)を閉ざしていますが、このままでは地球も魔王に支配されてしまいます。そこで貴方に頼みがあるのです」


 女神は何かを呟く。すると女神の口から光の粒子が溢れ出し、光の粒子達は一つの剣の形になった。


「それは光願剣(こうがんけん)・絶、闇を討ち滅ぼす正義の剣です。オティンコスと同じ魂を持つ貴方ならそれを扱えるでしょう。お願いします、魔王サウザンドズーリを倒してください」

「えっえええ!待ってください!無理ですよ!」


 それは普通の人間ならば当たり前の反応かもしれない。

 急に訳の分からない所に来て世界を救えなど無理な話だ。それに金太は喧嘩が弱い。友達と喧嘩をしても負けてしまう。腕力に自身が無い金太は負けが多いのだ。

 金太は負けが多い。金太、負けが、多い。金太負けが多い。

 そんな金太の反応を予想していたのか、女神はため息をついた。


「やはり駄目ですか……ならこうするしかありません」

「なっ何ですか⁉︎」


 女神は金太の額にキスをした。


「汝の道は我が決める。故にその証を刻もう。禁呪印(オナキン)!」


 女神が口を放すとキンタの額にバツじるしの様な物が浮かび上がった。


「今貴方に呪いの印を刻みました。これから貴方は強制的に魔王討伐の旅に出てもらいます」

「はぁ⁉︎嫌で……ひぐうっ⁉︎」


 キンタは下半身を抑える。

 反論しようとした瞬間、下半身に電流が流れた様な痛みが襲ったのだ。


「貴方が冒険を拒めば、禁呪印(オナキン)の呪いにより痛みが走ります。拒めば拒むほどその力は強くなります。どうですか?冒険をする気になりましたか?」

「いっ嫌だ……んひぃ!」


 ビクンビクン。

 キンタの体がまるで芋虫の様に波打つ。

 キンタはSではない、だがMでもない。ノーマルな性癖のキンタにとってこの痛みは所謂ご褒美では無く拷問に近かった。


「くっ……」


 地面に倒れるキンタ。口から涎がだらしなく垂れている。

 悲しく「ごめんなさい」と言って屈み、女神はキンタの頬に優しく触れた。


「貴方は魔王を倒すのです。いいですか」

「は……はい…」


 頬を伝う涙。キンタは(またた)く。キンタ瞬く。


「大丈夫……っそろそろ時間なので私は消えなければなりません。先ずは此処から西へ進んでヨシアキと言う賢者に会ってください。きっと力になってくれるでしょう……どうか魔王からこの世界を……キンタ守ってください」


 キンタ…守ってください。キンタ…ま……もってください。

 そう言って女神と家は霧の様に消えてしまった。

 残ったのは大地に突き刺さる大剣ただ一つ。

 キンタの顔には幾らかの迷いが見られる。だが立ち上がってヤケクソ気味に大剣を抜き取り叫んだ。

 剣を高々と掲げキンタは叫ぶ。

 これは後世に語られるタマタマ丘の叫びである。

 この叫びと共にキンタロードは始まるのだった。

 

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