とんとん拍子のようで
十一月下旬、その日、文月の部屋に目黒は居た。
いつも通りとなるサボテンの口実から始まり、サボテンの話で終わった時、目黒がさっと出して来たのだ。
「ほら、文月、これあげる」
「何これ?」
それは目黒が勤める花屋のチラシの紙が半分に折られたものだった。
「開けてみて」
言われた通りにするとそこには誰かの携帯電話の番号とメールアドレスがあった。
「誰の?」
「大塚さんの」
事もなげに言ってくれた。
その顔……と言うように目黒は言う。
「この前、大塚さんとばったり偶然会ったの、それでもらったの」
白々しい。
「嘘でしょ!」
「本当だってば、お友達になってね、もらったの」
まだ言い足りない。
「ねえ、文月、あまり考え込まない方が良いわよ。そうすると、文月に良くないから」
目黒の言うことはもっともだ。
それを考え込んだら眠れなくなる。
「分かった、本当に大塚さんの、なんだね?」
「そうよ」
目黒はとても疲れた……というように飽き飽きとしていた。
目黒が帰った。
目黒に内緒であの本屋で買ったサボテンの本は隠してある。もう何があっても大丈夫だ。そんな気持ちで目黒を部屋に入れたのに……、何だこれは。
少し早いクリスマスプレゼントどころの話ではない、本人の気持ちを無視してよく動く友人だ。それをもらって嬉しいかなんて分からないじゃないか。最初から欲しいと望んでいたのならまだしも、何も言っていないのに、どうしてこういう流れになってしまったのか。
しばし、その紙に書かれている字を文月は眺めた。
(大塚さんの字、なんだよね……これ)
丁寧に見やすく、男の人が書いたようには見えないきれいな字だ。
負けたな……。
その紙をもらって決めるまで、ほんの少しの時間が掛かってしまった。
今日、発見したら言う! と決意を決めて来て良かった。また今日も居る。
「あの、大塚さん! メールしても良いですか?」
「いいよ」
あっさりと、誰かから教わった? というような顔をしている。
「あの、目黒が……ごめんなさい!」
あまりにもデカイ声で謝ったからだろうか、大塚に笑われた。
「君は、いつも表情豊かだね」
くくく……カッと顔が赤くなった。
「じゃあ、今日から」
「はい……」
火照ったまま、何も見えなくなった。