朱雀と氷竜の憂鬱
もう日が落ちようとしている。
綺麗な青と、オレンジが混ざった赤色の空。
俺はこの景色が1日の中で一番好きだ。
一番落ちつく景色。
「あーあ。早く白虎達に追いつかなきゃなー。」
そういいながら放課後の廊下を歩く。当然、誰もいない、自分の足音だけが響く長い廊下。
最初は自分の足音だけだったが、前からもうひとつの足音が聞こえてくる。
念のため警戒しておく。日の光が照らし、その者の姿がうつされたー。
美人。俺は一目で惚れたと確信した。こんな人学校にいたっけな。と思いながらすれ違うー。
「....あなた。」
「は?」
少女は俺をじっと見つめながら言葉を発する。
「あなた、人間?」
「っ!?」
驚いた。俺は元々は人間だがそうじゃない血が混ざってはいる。が、並の人間がそれに気づくはずがない、いや、気づくわけがない。
「あんた、何者だ...闇...か?」
俺は精霊の力で彼女の魔力オーラを探知する。
そのオーラは明らかに光ではなく、どす黒い闇のものだった。
「何故?何故分かったの?」
どうやら図星らしい。
「精霊の力さ。君のオーラを探知したんだよ。」
「...残念。」
「へ?」
「貴方、闇って言うってことは光の者...でしょ?」
推理力凄いな。と思いながらも、俺は慎重に会話を続ける。
「で、何で残念なんだよ。」
「....私は闇。貴方は光。光と闇は敵対する運命。私は貴方と闘わなければならないことを残念に思う...」
こいつっ!何て事を発するんだ!天然!?
「っ...///」
ますます彼女に愛情が湧いてくる感情を押さえ込みながら俺は話す。
「俺も...君みたいな人が闇だなんて...残念だ。」
「....。私は氷竜。インフィニティ・フラッド。人間の世界では雪冰と呼ばれてる...貴方をっ...消す者の名よ...」
彼女は何故か悲しそうに言葉を発する。
「俺は四神家が一人、朱雀家当主、光火だ。俺も...お前を倒すっ...!」
「光火...記憶した。ここは狭い。場所を移しましょう。」
彼女は暴れるのに場所が狭いのか、移動を提案してきた。
「そう...だな...屋上とかどうだ?」
「同意。」
彼女はそう言うと冷気とともに消えた。どうやら屋上に向かったらしい。にしても...
「俺もつれてけよ...」
~in屋上~
「さーてと。はじめるか。」
俺がそういうと彼女は言葉を発することはなく、コクッと首を縦にふって合図した。
「精霊召喚。炎猫!!」
「...凍れ。黒冷雹。」
彼女の魔術で俺の足元がだんだん凍っていく...
「なっ!炎猫!我が眷族よ、舞え!鬼の舞!」
炎猫は俺の命令通りに鬼火を彼女の元に飛ばす。
鬼火だけでは彼女に及ぶはずなくー。
「氷槍雪、....堕ちて。...っ」
氷の槍が鬼火に向かって落ちる。しかし、彼女の一部の槍は被弾した。彼女は正確に狙ったはず、何故だ?
そう考えていると炎猫が彼女に近づいていく。まるで怖くない、とでも言うように。
「...っ!来ないでっ!氷棘!」
地面から氷の棘が炎猫に向かって伸びてくるー。
「炎猫っ!!くっ!」
俺はとっさに炎猫を棘から守ろうとした。守ろうとした代償なのか、棘が刺さった感覚がした。
「...ごめ、んなさい...でもっ...主の、命令...だから...っ。」
さっきの傷が痛むのか、左腕を押さえる彼女。
「だ、大丈夫だって!こんな傷いたくもねーしよ!」
そう言って励まそうとするーー。彼女は聞こえていないのか、氷の剣を召喚した。
「...命令...だから...っ。」
氷剣を俺に向ける。至近距離なのでこりゃ切られそうだ。彼女になら切られてもいい。そんな気がしたー。
「...ん。」
「なっ!!」
予想外の展開だったのか、目を開いている。
「俺、雪冰になら切られてもいーや。会ったばっかだけど、好きになったんだし。切っていいよ。」
「なっ...!ど、どうして?....っ駄目なの...だってだっ...て、主が...命じて...どうして、どうして...私は闇ーー。...悪なんだよ?」
「俺、雪冰にしんでほしくない。一目惚れだわ。雪冰が闇だろうが悪だろうが関係ねーよ。」
「わからない...わからないわからないっ...!!人間の考えることなんて、理解...できないよ...っ!」
彼女が戸惑い、持っていた氷剣が砕ける。俺はとっさに雪冰を抱きしめた。
「今はわからなくていいから...っ!俺も人間じゃないからわかんないけど長い間人間を見てきたから、この感じ...わかる。魔術も、主も神も関係ない、光と闇の境界も越えてーーー好きだ。」
「私...は...っ!光火!離れてっ!!」
突然、雪冰が俺を突き飛ばしたー。何事かと思いつつ自分がいたところを見れば、そこには氷の矢が突き刺さっていた。
「やぁ、姉貴。」
上空には見知らぬ少年。どこかしら雪冰に似ているー。と思ったのも束の間ー
ビュオッ!と見慣れた鬼火が飛んでくる。
「兄さん、久しぶりやのぅ。」
俺の妹、丹那がいた。
「...零、どうしてここに...」
零、と呼ばれる少年はどうやら雪冰とは知り合いらしい。
「はじめまして、先輩。零冰と言います。俺はここの一年生で、そいつの弟ってとこです。以後、お見知りおきを。姉の様子を見に来たら見知らぬ男に迫られていたもので...つい邪魔してしまいました。」
「弟...か...邪魔するなよ...(汗」
シスコンか。と思いながら俺は零冰を敵視する。
「兄さん。丹那もほとんど同じ理由できてんやけんど...兄ぃ、丹那にあ炙り焼きにされたいんかぇ?」
丹那もたまたま俺らを見たのか、魔力を感知してやってきたのか。俺の妹は世話焼きだなと改めて思った。
「零冰も丹那も誤解だ...!俺はただ...」
「ま、俺は今あんたには興味ないんでね。丹那ちゃんに光火先輩っと...また会って覚えてたら勝負しましょ。興味というか、用事があるのは...」
「零...何しにきたの...?」
「そう、あんただよ、姉貴。呼び戻しにきたんだよ。」
不適な笑みで雪冰を見つめる零冰。何をしでかすか分からない零冰に警戒する。
「雪冰を、どうするつもりだ...!」
「そう身構えないでくださいよ、先輩。それに先輩には関係ない事です。」
「なっ...!」
「姉貴、主が呼んでたよ?」
そう零冰が言うと、雪冰は悲しそうな顔で
「...そう、すぐ戻る。」
「ちょっ...雪冰っ!」
雪冰を止めようとすると、横から裾をつかまれた。
「兄ぃ!丹那らの主も呼んでたんでぃ!!」
「くそっ...こんなときにっ!」
そう言いながら雪冰を見ると、
「....。」
雪冰は困った顔をしながら、消えた。
「....っ!」
彼女に会ったのは必然か偶然か。
それはうつつか。
その事が分かるのはーーーーーーー
『あの日』だ。