SOUL OF SONG《魂の慟哭》
どうか重圧に押しつぶされないでください
「お前には期待しているぞ」
親父が笑顔で俺にそう言った。
しかし俺はこの言葉は嫌いだ。
俺の親父は学生のころは神童と呼ばれるほどの天才肌で大人になってからも出世街道まっしぐら。
そして母さんも神童とは呼ばれなかったらしいがそれなりに学業も運動もできたと言っている。
俺はそんな二人から産まれた。
両親は俺に色々な期待をした。
学業も運動も美術においてもだ。
けど俺はそんな期待を全て裏切った。
学業は中の中、つまり平均野郎で運動もできないことはないが飛び抜けてできる方でもない。
突然だが俺には一つ下の弟がいる。
こいつはものすごく出来がいい。
いつも両親に褒められ、光に当たっている。
高校のクラスでも家でも弟と比べられ、弟もご家族も天才肌なのに何故君は普通なんだ、何故この程度のものもできないのかと言われ続けた。
今まで俺は光に当たりたくて努力してきたなのに俺は才能って物がないらしい。
俺は天才にはなれなくて良くても秀才といったところだろうか。
まあ俺はその秀才にもなれないんだが。
だから俺は光に当たろうとすることをやめた。
希望も捨てたんだ。
光に当たろうと努力しない人間は絶対に光に当たることはない。
でもこれでいい。
努力しても無駄ならば少しでも楽な生き方をさせてくれ。
「親父はっきり言ってくれほんとに俺に期待してるのか?」
暇だったので親父に聞いてみた。
親父は無表情で
「ああ、すまんなもうお前に期待するのはやめたよ。だからお前は私の家族ではない。凡人の息子なんぞいらない」
と俺に吐き捨てる。
その時俺は何故か妙に落ち着いていた。
これでいいんだと。
俺は光の当たらない海の底へと沈んでいった。
しかしさっきの冷静はどこへやらで部屋に戻って感じたのは絶望感。
現実に絶望してしまった。
俺の現実はこんなにも無価値なのかと。
今までの俺の努力は何だったのかと。
気がつけば目から涙が出ていた。
「う、うぁっ、あああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
今俺にできるのは叫ぶことこの絶望と怒りと憎悪を吐き出したかった。
親父を殺してやりたかった母さんも弟も全部何もかも壊したくなった。
てもそれはやってはいけないことだ。
母さんには母さんの弟には弟のそして親父には親父のそれぞれの人生がある。
それくらいは分かっている。
各々が主人公であるストーリーがあるのだ。
それを奪うなんて俺にはできない。
憎悪というものは、嫉妬、絶望というものは酷く醜い。
俺は家を飛び出してカラオケへ向かった。
唯一の楽しみであるカラオケ。
友達には凄く上手とか歌手になれるとか言われたけどそんなの嘘に決まっている。
人は嘘をつく生き物なのだから。
カラオケ店内は空いていてすぐに部屋に入れた。
「歌うか」
最近一人でいることが多くなったので若干独り言が増えたこの頃。
最近ハマっている蒼き◯のアル○ジオのopを練習している。
そして、一人だが今日お披露目だ。
さっきまでの暗い空気を飛ばそうか。
カラオケに行くと突然性格が変わる人がたまにいる。
学校では大人しいのにカラオケに行くと突然性格が変わり元気になる人。
ちなみに俺もそれだ。
歌だけが俺の全てを曝け出せる物。
部屋の明かりをつけ、曲を入れる。
部屋に設置されたスピーカーから曲が流れる。
「♪♪♪」
ちゃんと採点も入れてある。
少し基準が甘いけどこの機種は曲数が多いので好きだ。
「♪♪♪」
この歌はデュエット曲。
英語の歌詞が多く完璧に覚えるのに苦労した。
音程も意外に高いのでボイトレまでして出せるようになって歌えた。
「♪♪♪‼︎」
額から汗が出てくるその汗は額から頬へと伝う。
喉を全開に開き、声を腹から出す。
額から出てくる汗は俺の身体の中にある暗い気持ちも持っていってくれる。
歌を歌うごとに心が軽くなってゆく。
曲は二つ目のサビが終わり間奏へと入り、ここから英語の歌詞が連続で出てくる。
しかし、問題なく歌う。
「♪♪♪♪♪♪‼︎」
曲は大サビへと向かいリズムが熱くなってゆく。
俺だけの空間。
部屋の温度が上がってゆくのが肌でわかる。
でもこの感覚が俺の想像が創りだしたことくらいは分かる。
それでも俺にはそう感じるのだ。
全身汗だらけ。
この歌に命でも掛けてんのかと言われそうな剣幕。
そして英語の歌詞が終わり日本語の歌詞に戻る。
まだ大サビではないが熱さがさらにヒートアップしてゆく。
ついに時は来た。
俺お待ちかねの大サビ。
喉を全開にし思いっきり息を吸い今まで生きてきた中で最大級の声を出す。
誰よりも熱く叫べ‼︎‼︎
最大級の声とともに俺の魂が唸りを上げる。
もっとだ!もっとだ!叫べと。
大サビの盛り上がりは異常だ。
俺はこの理不尽な世の中で生きなきゃいけない。
だから歌を歌う。
俺にとって歌は命と一緒だから。
親に押しつぶされないよう、弟に押しつぶされないように。
さっきまで俺は光に当たらないと決めていたのに……やっぱり人は、特に子供は考えがコロコロ変わる。
勉強もダメ、運動もダメだったら俺は歌でこの声で海の底から光へと向かい上がってやる。
たった一曲歌っただけなのに俺は入店時と別人になれた気がした。
なれた気がするだけかもしれない。
本質は変わらないかもしれない。
それでも俺は別人に、光に当てれる人になった気がしたんだ。
そして部屋を出るとき、TVの画面を見ると100点の表示が右横にひょっこりと大人しそうに表示されていた。
歌は最高の贈り物です




