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変成、変転、変容

 その剣をくるくると回してつららを跳ね飛ばしながらバサラが楽しそうに笑った。

「古代レーン文字を組み合わせたか。良く勉強したな、カルラ。だけどまだまだ甘いな、これでは術を出すまでもないな」

 そう言うとつららの剣が飛んで来る中をバサラは、そのまま突っ込んで来る。 そこでイーヴァルアイの腹に拳を一発見舞い、怯んだところを体を返してイーヴァルアイの両腕を片手一つで拘束する。

「ベオークの魔道師は体術と剣術も必須なのがどうしてか、わかったかい? おまえは術に頼りすぎなんだよ」

「お二人の仲の良いのはわかりましたからわたしの竜印を取っていただけますか、カルラ様。サンテラは今、使えませんし。二つの竜印があるのがこんなに体に良くないとは知りませんでしたよ。四六時中体の中を焼かれているようです。だいたい、一つの体に二つの龍を封じるなんて無理というものです」

 インダラが不平を言うように口をとがらせて割って入る。

「わたしが竜印を刻印された時点で、竜門を開けてカルラ様の所に行って用を済ませばさっさと終わるのに。ザーリアくんだりまで来て州候と遊んでいるから時間がかかってしょうがないじゃないですか」

「だって面白いじゃないか、それにこのままカルラをベオークに連れ帰ったらこの島の結界は消えないし。なら、ここで結界に穴を空けてベオークの支配下におけるようにしたほうがいいだろ?」

「ごもっともなご意見ですけど。今考えたんでしょう、バサラ様」

「ばれたか。カルラ、悪いけどインダラの竜印取ってくれる?」

「誰がやるか」

 イーヴァルアイの答えに仕方ないなとバサラはイーヴァルアイの手を離す。 電光石火、ヴァイロンの首に手をかけるとそのまま引き倒して手に力を入れる。

 見かけからは想像も出来ない速さと力に成すすべも無くヴァイロンは目の前が暗くなる。

「もう一度だけ言うけど、インダラの竜印取ってやってよ、カルラ。わたしもいつまで力加減ができるかわからないよ」

 バサラに大きく舌打ちしてイーヴァルアイがインダラの胸に手を当てる。

『エワズ、ラグズ、ハガラズ、ケン』

 言いながら印を組むとインダラの胸に右手を突き入れて、立体化した竜印を引き抜いてそのまま地面に投げ捨てる。

『滅せよ』 イーヴァルアイの言葉に炎をあげて竜印は姿を消した。

「いい子だな、カルラ」

 バサラは起き上がろうとしたヴァイロンの後頭部を剣の柄で殴りつけて倒すとイーヴァルアイに近づく。 そして竜門を開けようとしたイーヴァルアイの背後から抱き込んで止める。

「どこに行くつもりだ、もうどこにも行かせないぞ」

「離せ、変態、わたしに触るな」

「そんな態度が逆に誘っていることに気づかないとは本当にかわいいな」

 バサラは、イーヴァルアイの体をあっさり反転させると頭を押さえて深く口付けた。

 その様子にインダラが呆れたように文句を言う。

「バサラ様何ですか、こんな場所でこんな時に。もう、あなたって人は……そんな事はベオークのご寝所でいくらでもなさればよろしいでしょうに」

「無粋なやつだな、インダラ。久しぶりに花嫁に会ったんだから少しは見逃してくれよ」

 薄く意識の戻った頭でヴァイロンはそのバサラとインダラの会話を聞いていた。

 ――花嫁? 何のことだ。

 痛む頭をかすかに動かして声の方を見るとバサラに抱きしめられているイーヴァルアイが目に入る。 その姿は昔見た気がする――そうだ、あの晩のうなされていた時の顔、だ。

 声無き声がヴァイロンに聞こえる。 助けてと、言っているのだ。

 ――助けて、ヴァイロン。

 ヴァイロンは咄嗟にローブの下から剣を取り出してねらいをつけて力一杯投げる。 剣はその物の力でもあるのか鋭い弧を描いてバサラの腕に突き刺さった。

「これは――護法神、なぜここに?」

 見る間に剣が突き刺さっているところが灰色になっていく。

「腕を切れ」

 ズサッという音とともに切り落とされるバサラの左腕は、地面に落ちて砕けて砂のように山を作る。 バサラの腰から剣を抜いてバサラの腕を落としたのはラドビアスだった。

「くそっ、出直しだ。インダラ行くぞ」

『変成、変転、変容、我の命により辺幅、変化せよ』

 形勢が不利になるとみるや、片手で印を組んでバサラがインダラの背中を突くとインダラの姿に変化がおこる。 皮膚がかさかさと捲くれ上がったかと思うとそれは鱗に変わる。 四つん這いになった体は長く延びてびしりという音とともに長く尻尾が地面を叩いた。 その姿は巨大な蛇のようであり、ヴァイロンの見たことのない物だった。 頭部から後方に向けて大きく生えた角をつかむと、バサラは左肩から血を流しながら飛び乗り大声を出す。

「インダラ、にえをつかまえろっ。それで結界を突破する」

 大きい咆哮とともに翼も無いのにバサラをのせたその獣は飛び上がり、目の前にいた魔道師の一人を咥えるとあっと言う間に天井を突き破って行く。 その後に城全体を揺るがすような雷の音と振動がそこに居るもの全てを倒して――収まった。



「ドリゲルト様、お待ちを。私たちをお見捨てになるのですか」

 州候のレーニエの叫びに答える応えも無くその声は反響を繰り返して消える。 唖然とする者たちの中、イーヴァルアイがいち早く立ち直ってレーニエを見る。

「船に乗れ、レーニエ。出航だ」

「イーヴァルアイ、わたしも行く」

「だめだ、ヴァイロン」

「なぜだ」

「術をかけにいくからだ。女たちを使って結界の穴を塞ぎ、海域の地形を変える。この状況を逆に利用させてもらう。術に巻き込まれたくないだろう。それに――」

「それに?」

「もう……見られたくない。わたしのおぞましい行いを」

 顔を背けてイーヴァルアイはレーニエに術をかけ、後を付いて来させると水夫に命を下させる。 船は大勢の人間と荷をのせて水路を進んで行く。

「ヴァイロン様、恐れ入りますがわたしをゴートの廟までお連れください」

 苦しそうに喘ぎながらラドビアスは竜門を開ける。 胸からは血がだくだくと流れている。

 ――剣を抜いてバサラを助けたのだ、この男は。 イーヴァルアイとわたしを裏切った。

「ここでイーヴァルアイを待つ」

「ここは主がいいようになさいます、ヴァイロン様」

「まだ、イーヴァルアイを主人だというのか」

「――わたしの主はイーヴァルアイ様です」

 苦々しく思いながらも崩れるラドビアスをそのままにしておけない。 肩を貸すとヴァイロンは竜門を潜った。


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