露払い
「…痛ってえ、何なんだよいきなり」
「全く、女にぶたれて腰を抜かすなんて情けないわね」
目の前の少女がへたり込んでいる亮に手を差し伸べる。彼がその手をとって起き上がろうとした直後。
「痛痛痛痛い‼︎ギブ、ギブだから‼︎」
関節を決められた亮は、少女の細腕によって地面に組み伏せられていた。
「何を勘違いしてるのか知らないけど、私に触れるなんていい度胸してるわ」
「何だよ、引っ張り上げてくれるのかと思ったのに」
「更なる追撃をかけようとしていただけよ」
「鬼畜すぎねえ⁉︎」
ここまでの扱いを受けるような事をした覚えは全くない。さきほど結の名前を出していたが、その分で言えば裁かれるのは大輝の方で有るべきではないのか。
「あの、そろそろ離して頂けませんか…?」
この少女に勝てる気が全くしない亮は、恥も外聞もなく下手に出るしかなかった。
「今後一切結ちゃんをオカズにしないと誓いなさい」
「君女の子だよね⁉︎そういうこと言うの良くないと思うな⁉︎」
「結ちゃんをオカズにするのは私だけに許された行為なの」
「聞きたくない!これ以上リアルのイメージを悪化させんな!」
本気で耳を塞ぎたいぐらいだったが、腕を締め上げられた状態ではそれも無理だった。
「分かった。誓うからもうやめてくれ」
すると、意外にもあっさり少女は亮を解放してくれた。すんなりと行き過ぎて、亮は逆に訝しむような視線を向ける。
「結ちゃんには私、三沢夏帆という露払いがついているという事を努々忘れないことね」
ロングの黒髪を翻して、暴力少女は去って行った。