闖入者
一週間後。
黒田が当番の日を狙うタイミングで、亮は図書室を訪れた。今日に至るまでに脳内リハーサルは万全に行ってきたはずだ。後は、実行に移すのみ。
カウンターの向こうの少女に軽く手を挙げて挨拶すると、彼女が会釈を返してきた。
「この巻の展開は凄かったね。早く続きが読みたいよ」
「だよね⁉︎」
予想通り。
ほとんどのオタクに共通して言えることだろうが、仲間同士で盛り上がる時には普段の口数など関係なくなる。共通の作品を読んでいるならば、話題には全く不自由しないのだ。
「最後の挿絵とか半端なかったよね」
「あ〜、次何時でるのかなぁ」
寡黙な姿も黒田らしいと言えるのだが、今の生き生きと目を輝かせた表情も、魅力的だった。
話も弾んできたところで、亮は自己紹介を済ませておくことにした。
「そういえば、名前言ってなかったよね?えと、俺は仁科亮。大輝の幼馴染ってやつかな」
「黒田結、です」
途端に大人しくなった結に、亮は三回ほど悶え死んだ気がした。今の亮にかかれば、きっと彼女が何をしても可愛いと言うのだが。
それから十分ほど雑談に花を咲かせた後、亮は下校した。
ほくほく顏で一人帰宅する亮だったが、唐突に後ろから肩に手を置く者がいた。相手の姿を正面に据えた瞬間、亮の視界に星が飛んだ。
パァンという音からして、ビンタを食らったらしい。あまりの威力に、亮は尻餅をついてしまった。目尻から何かが零れ落ちるが、多分汗だろう。そう思っておくことにする。
亮が表を上げると、腕組みした女子高校生が仁王立ちしていた。
残念ながら、パンチラは望めそうになかったが。
「アンタね、私の結ちゃんを誑かそうとする男は」
大体先の展開が読めてきた亮であった。