符合
もうとっくに春真っ只中という季節のはずなのだが、放課後の校舎に流れる空気はひんやりとしている。
寒さに首をすくめながら、亮は図書室の空調を求めて足を進めていた。
ティーンズのコーナーから今日読むものを一冊抜き取り、手近な席につく。欲しいものが置いてあるときは、大抵その場で読み切ってから帰る。全くそんなことは無いのだが、学校に残って勉強して帰ったような気分になれるのがお得なのだ。
一気に一つの章を読み切り、充足感と共に大きな欠伸をついていると。
背中を優しくつんつん、とつつかれた。ゆっくり首を後ろに回すと、パキパキっと小気味良い音がなる。
「黒、田さん?」
「あの、これ…読み終わったから…」
「あ、あぁ…!ありがとう」
「帰るときに、カウンターに寄って行ってね」
「ん?」
彼女の発言の意味を捉えかねた亮だったが、そそくさと帰っていく少女がカウンターに座り、読書を始めたのをみてようやく事情を汲み取った。
「あぁ、図書委員なのか」
実際に本を借りて帰る機会が少ないため、今まで気づかなかったのだろう。しかし、図書室で読書をする彼女の姿はとても絵になっていた。
というか、亮的にどストライクすぎる。これなんてギャルゲ、とでも言おうか。
そこまでは良かったのだが、次の瞬間、黄金比を崩す男の影が現れた。
「大輝⁉︎」
「お、亮じゃん。昨日ぶり」
すぐさま彼のもとへ駆け寄り、問いただす。
「どういうことか直ちに説明せよ」
「どうって、俺と黒田さんは同じ図書委員だぜ」
亮の脳内で全てが符合した。なるほど、そう考えると接点の無さそうな二人が口をきいていた事、趣味を知っていたことも納得できる。
「そうじゃなかったら俺は大輝の暗殺に乗り出すところだったよ。安心した」
「……俺はその発言に不穏な気持ちしか覚えないんだが。ところでお前、もう閉館時刻近いぞ?借りたいもん有るんだったら今のうちに通しとけよ」
「そっか、じゃあ持って来るよ」
読み止しの本に栞をはさみ、黒田から受け取った本と一緒にカウンターに差し出す。
黒田と刹那視線が合い、心臓が飛び跳ねた。
「どうぞ。期限は来週の火曜日までです」
「ど、どうも」
うるさい程に高鳴る鼓動が聞こえてやしないかと心配しながら、亮は本を受け取った。