恋煩い
「やったじゃねえか、亮。あれならまた話す機会も出来そうだな」
からかうように、大輝が肩を小突いてくる。
「分かっててあんなこと言ったわけじゃねえって」
「にしても、お前は本当顔にでるよな。まぁ黒田さん可愛いし、惚れても仕様がないかもな」
「くっ…!」
「いい傾向だな。まぁ俺に出来ることは手伝ってやるつもりだ、頑張ってこうぜ」
大輝に完全に手玉に取られつつも、亮はどこか悪くない気分だった。
玄関で靴を脱ぎ捨て、リビングのソファに倒れこむ。
「くそ…可愛いかったな」
現実の女の子にときめいた事など、何時ぶりだろうか。今日は駄目だ、ライトノベルを読んでいても目が滑ってしまうだろう。
「あ〜もう、俺ってこんな単純なやつだったのか」
創作物の中に登場するありとあらゆる女の子を目にしてきた亮だが、黒田少女の破壊力はそれらを凌駕していた。
「オタク…なんだよな?じゃあ少しは話通じるのか、いや、ただ腐の方だったら俺はどうすれば…」
他愛のない妄想を膨らませてごろごろしている内に、亮は眠りについていた。
「おら、起きんかい」
「グボァ‼︎⁉︎」
亮の目覚めは、腹部の鈍い痛みと共に訪れた。全体重を乗せた姉、望美の足が亮の鳩尾をグリグリと踏みにじる。
「や、やめで」
「飯だって言ってんでしょうが」
背を向けた望美に遅れて、亮は食卓につく。共働きの両親はまだ帰宅しておらず、二人きりの晩餐である。
望美の作る料理はいつも絶品なのだが、今日ばかりは何を食べたのかも記憶が定かでは無かった。