再会
翌日。
部活や生徒会に向かう生徒の流れをすり抜け、亮は大輝のいる教室へ足を運んだ。
「まず亮が取り掛かるべきは、他人とのコミュニケーションの絶対量を増やすことだ。そのためには、お前と同じ話題が通じる人間を探さないとだめだ」
「俺のクラスにはいないって。いたとしてもそれを表に出すタイプじゃない」
「ならクラスに拘る必要はないだろ。ちょうど趣味が合いそうな人を知ってんだ」
にかっ、と笑う大輝の視線の先には、放課後の教室で読書をする女子生徒の姿があった。だがあの風貌、どこかでみた記憶が……。眼鏡の奥で目を凝らす亮。
「ん〜…?あっ!」
「え?何、黒田さん知ってんの?」
ぽんと手を打った亮に、大輝は心底驚いた表情をみせる。そう、あの少女はつい昨日の図書室で亮が借りたい本を横取りした、まさにその女の子だった。
「大輝、悪いことは言わねえ。あいつだけはやめとけ」
「知ってるなら大分手間が省けたな」
「ちょ、離せ!」
亮の憤怒の形相も意に介さず、大輝は彼を黒田という少女の元へと引きずって行く。本から目線を上げた少女は、亮と目が合った瞬間にさっと顔を背けた。
「やぁ、黒田さん」
大輝が手をヒラヒラと振ると、黒田少女はコクリと頷いた。さすが大輝と言うべきか、無口な女の子ともこの短い期間で親しくなっていたらしい。
何の用だろうか、と二人の顔を伺う少女。だが、亮の刺々しい眼差しに射抜かれた黒田は、ビクリと肩を震わせた。
「亮、何女の子ビビらせてんだよ」
「や、そういうつもりじゃ…」
やり過ぎたかな、と眉根を下げる亮の耳に、少女のか細い声が滑り込んできた。
「ごめんなさぃ…その、この本…どうしても読みたかったから…」
ズキュゥウン、と心臓が貫かれたような錯覚に襲われる。
いや、まず少女からの謝罪の言葉に対する意外感が大きかったのだが、それ以上に亮の中に新たな感情が芽生えようとしていた。
三次元にも萌えはあったのか…⁉︎
いまや亮の感情のベクトルは反転し、彼の顔は赤みを帯び始めていた。
「ぜ、全然いいから!その、読み終わったら教えてもらえたら嬉しいかな〜、アハハ……」
「ごめん、邪魔しちゃったね。じゃあ俺ら帰るから、また明日ね」
大輝の言葉によって場が収められ、二人はそのまま教室を後にした。