第一歩
「僕は……僕はそうは思いません」
渡辺が目線で亮に続きを促す。
「少なくとも、創作物は創作物と割り切って楽しんでいる分には、現実逃避にはならないと思います」
「そうだろうね。現実逃避になるのは、現実と創作物を混同しているか、もしくは創作物にかまけて現実を疎かにしているからだ」
言葉を区切るように間をおいて、渡辺は続ける。
「厳しい言い方になるかもしれないが、自分の殻に閉じこもっている彼女にも非はある。黙っていても心配してくれる人間が、ずっとそばに側にいてくれるとは限らない」
黙って聞いていた亮は、この言葉が自分にも向けられたものなのだろうと気づいた。まさにそれは、亮と大輝の関係そのものだったから。
「今のぬるま湯の関係から抜け出す覚悟を、いつかは決めなければならない。だが、僕はこうも思うんだよ。似たものどうし、通じ合うものがあるのだろうと。仁科、彼女の気持ちを一番分かってやれるのは君なんじゃないのか?」
「僕が……ですか」
「君らはまだ若い。多少ぶつかったとしても、絶対やり直せるはずさ。もしそうなったら、僕に相談するといい」
わずかの間亮の気持ちが揺れていたが、渡辺の堂々たる面持ちを見ているうちに決心がついた。
「はい!」
頼もしい返事とともに、亮は一歩を踏み出した。




