問いかけ
「コーヒーと茶、どっちがいい?」
給湯室に入ると、渡辺は亮をソファに腰掛けさせて電気ポットでお湯を沸かしに行った。
「えっと、コーヒーでお願いします」
「申し訳ないがインスタントで我慢してくれ」
「全然大丈夫です」
二人分のカップにお湯を注ぎ、亮に背を向けたまま渡辺は言葉を続ける。
「お、あったあった」
冷蔵庫を漁っていた渡辺が、カップアイスを二つ携えて向かいに腰を下ろした。亮と自分の前にコーヒーカップとバーゲンダッツアイスを並べ、渡辺は手振りで食べるよう促す。
「僕からのほんの気持ちだ。さぁ、食べようか」
「きょ、恐縮です。いただきます」
手を合わせ、亮はアイスに口をつけた。何だろう、目の前の教師が凄く尊敬できる人物に見えてきた。餌付けされている可能性も無くは無いが。
亮が完食したタイミングで、渡辺はおもむろに口を開いた。
「どうやら色々難儀してるみたいだな」
自分の内面が見透かされたのかと思い、亮は表情を固くする。
「そんなに固くならなくていいよ。僕は別に千里眼じゃないからね、聞いてない事まで知ってるわけじゃない。三沢からちょくちょく相談を受けてたんだよ、黒田が最近少し不安定になってるってね」
「三沢が……」
あんなすました態度を取っていたものだから、てっきり気にかけていないのだと亮は思っていた。
「彼女はあまり自分の気持ちを表に出さないから、きっと周りの人達は心配してるだろうね」
「先生は…黒田さんが何に悩んでるのか知ってるんですか?」
亮は期待を込めた眼差しを渡辺に向けるが、返ってきたのは否定の返事だった。意味ありげな間をおいて、渡辺は唐突な問いかけを亮に投げかける。
「仁科、君は創作物にのめり込む事を現実逃避だと思うか?」




