雑用
それから数日間の唯の様子は特に代わり映えもせず、イラスト制作はどん詰まりから脱することができていない様だった。
思うように行かずピリピリした唯に言葉を掛けることも適わず、亮は部活中に彼女とまともに会話を出来ていない。
なんとなく居た堪れない気持ちを感じていた亮は、トイレに行くといって少し教室を離れることにした。
時間を稼ぐためにあえて一階のトイレに向かっていると、廊下の向こうから渡辺がこちらへ歩いてきたのに気づく。
「こんにちは」
「おう、活動は順調に進んどるか」
「えぇ、まぁ…」
心にもない台詞を発したことに、軽く自己嫌悪を覚える。渡辺はそんな亮の目を覗き込むような視線を向けていたが、それも一瞬のことで、いつもの人の良い笑みを浮かべる。
「ところで少し手伝って貰いたいことがあるんだが、いいかな?」
正直気が進まないが、亮はこの教師に頼み事をされて断れる気がしなかった。
「何をすればいいんですか?」
「アンケートの集計をお願いしたいんだ」
「あぁ、今日のホームルームで書いたやつですね…」
「終わったら職員室に来てくれ」
渡辺からプリントの束を受け取り、亮は部室へと踵を返した。




