指令
帰ってすぐ一番にすること、それはライトノベルを読む事と決まっている。もしこの習慣を一日でも絶やしてしまえば、彼は体調を崩してしまうかもしれない。そのくらい、体に染み付いた習慣だった。
しばらく物語の世界に没入していると、机の上で喧しく携帯電話が鳴り響いた。何コールかは無視を決め込んでいたが、着信の表示を視界の端で捉えた亮は観念して通話に出る。
「はい」
『なんか声がささくれ立ってんな。嫌な事でもあったか?』
「あぁ、たった今ものすごい嫌な事があった」
『また本読んでた最中に掛けちまったか、悪りぃ悪りぃ』
亮と通話中の相手こそが、彼の親友であり幼馴染でもある平野大輝だ。大輝が亮の行動を言い当ててみせたように、彼もまた親友が何を言いたいのかを理解していた。
「また何か俺にお節介焼こうとしてるんじゃないだろうな。先に言っとく、却下だ」
『さすが俺の親友、良く分かってる。そういう事なら、余計な話はナシで行こうか。亮、お前彼女作れ。ただし半年以内に』
「はぁ⁉︎いくらなんでも度が過ぎんだろ!大体、そんなもん俺はいらねえっていっつも言ってんだろ」
『あのなぁ、亮。親友として一つ忠告しとくぞ。うら若き男子高校生が彼女欲しくないなんぞ、正気の沙汰じゃない。俺はお前にその考えを改めさせる必要があると判断した』
「だから言ってんだろ、俺は二次で充分満足してるって。リア充の勝手な価値観を押し付けるのはやめてくれ!」
吐き捨てるようにして、呟く亮。かわいい女子、彼女欲しい、そういった言葉を聞くだけで、亮は反吐が出そうな気分がする。別にいいではないか、他ならぬ自分自身が要らないと言っているのだから。何故リア充は、周りの人間に同じである事を強いるのか。亮の頭の中で、怨嗟の言葉が渦を巻く。
『新しいクラスで、友達は出来たのか』
「……」
『俺は何も、女の子に限った話をしてる訳じゃない。お前のその内に籠った姿勢をどうにかしろと言っているだけだ』
返す言葉もなく、大輝の言うとおりであった。コミュニケーションにおいて自分がかなりの不器用である事を、亮はちゃんと自覚している。
「もう遅えよ。殆どグループは出来上がってしまってるし、俺と話が合うやつなんて皆目検討がつかない」
『なんにせよ、やってみるしかないだろ。俺に任せとけ、明日終わったら教室に来いよ』
「おい、何……クソ、切りやがった」
自分の事をまずどうにかしろ、と言い返せないのが、辛いところだった。