立ち向かう勇気2
“PRISON MANSON”と智尋達“LUCKS”は同じ事務所でありながら、実は経歴上での間柄がよくなかった。
オーディションに受かり聖達PRISON MANSONが先に事務所契約を果たしたが準備期間が予想以上に必要で、デビューするまでの間に智尋達LUCKSが事務所契約をし先にデビューしてしまったこともあるが、実は彼らは聖達と同じオーディションにバンドとして参加をしていたのだ。
当時プロデューサーは聖達を合格にする時に他のバンドから“なぜバンドグループをデビューさせるのにバンドを組んでない彼らを合格にするのか”と苦情が出ないか心配していたが、やはり智尋達は納得出来ずにいた。
オーディション後ライヴハウスでスカウトされデビューが決まったLUCKSだが、事務所を訪れた智尋達はまだ準備をしている聖達を見て、
『やはり自分達の方が実力があるじゃないか』
と思うようになったのだ。それ以来LUCKSは聖達に対して表面上は先輩として接しているが、裏では偉そうにし聖達を見下していた。
――…‥
「“元実力派バンド、1年ぶりのシングルはチャート入りせず”か…」
楽屋で待機していた葉瑠が偶然手に取った週刊誌に書かれていた記事は、自分事でなくてもはやりいい気はしない。
話題にされているのが、同じ事務所の彼らだと思うと益々だ。
葉瑠達のデビューが遅かったのは曲作りに取りかかるのに時間がかかったのもあるが、曲が出来てもデビュー曲として満足が出来ず何度も調整を重ねていたのだ。
『デビュー曲として世に送り出すなら、自分達が納得出来るものを』
彼らなりのプロとしての自覚だった。
一方、聖達より早くデビューを果たしたLUCKSは、実力もあったため自らが作詞作曲したシングルはチャート入りし瞬く間にトップにのぼりつめた。
が、たまたまニューシングルの発売が大物アーティスト何組かと重なり、思うように売れなかったLUCKSは芸能界入りして初めて敗北に似た感情を味わう。
それからというものシングルが売れなのではないかという不安や、ルックスも良かった為にミュージシャンとしてではなくタレントとして活躍もしていたという事もあり、自らの持ち味だった自分達による曲作りをやらなくなってしまった。
最初はゴーストライターを使ったりしていたが、インディーズから彼らを知っているファンにはLUCKS自身の曲ではないことがわかるため、ファンの支持も薄くなってしまい今に至る。
――…‥
「…LUCKSとPRISON MANSONのみなさんは事務所が同じで歳も近いということですが、お互い普段は仲がいいんですか?」
歌番組本番を収録中、トークのコーナーでは司会者からの定番の質問。
聖の右側に久美が、左側には智尋が座っている。
「えぇ、事務所に入ったのは僕達が後なんですが、聖さん達には良くしてもらってます」
「芸歴を見るとそうですよね。今日は葉瑠さんは歌のみの出演と聞いていますが、お2人はLUCKSの皆さんとは?」
「僕達は曲作りに時間がかかりすぎてしまって、正直あまり会う機会がないんですよ。僕より久美が良く彼らと会うみたいで…」
聖はその芸歴だとか事務所に入ったタイミングの話はLUCKSの前ではして欲しくなかった。聖も久美も葉瑠もその話題はお互いのバンドの関係を悪くするかもしれないと危惧していたからだ。
「そうですね、良くぼ〜っとしながら煙草を吸ってると廊下でばったり出くわすことあります」
「聖さんたちが事務所にいるときって、ほとんど引き込もってばかりですもんね」
「僕達嫌われちゃってるかなって思うくらい、実は会うこと事態すくなかったり」
やはり話の雲行きが怪しくなってしまった。智尋の話す横でクスクス笑う声は、明らかに聖達を侮辱している。先程の廊下での出来事に気付かなかった聖も、さすがにこの場の雰囲気が悪いことに気付いた。
「ぼ…僕達はまだまだ勉強不足ですからね…」
「その割りには今日も葉瑠さんは歌だけって、勉強する気もないんじゃないです?」
「あの人はジャニさんにもスカウトされるんじゃないかっていわれる位だし、ステージに立ってれば大丈夫じゃないですか」
その発言に久美は顔をしかめた。言った本人は笑っている。
自己管理の不十分さは認めるがメンバーを侮辱され聖も見えない位置で拳を握り、怒りで震わせていた。
「なぁ、キミらそれは言い過ぎとちゃうか?」
そこへ助け船を出してくれたのは演歌界の大御所の綿矢だった。彼女は関西弁を話し、マナーやルールにはうるさいことで有名だった。
「私も松谷は体調不良って話は聞いたけど、確かに自己管理をしない松谷は悪い。でも仮にも事務所の先輩に向かってその言い方はあんまりやな」
綿矢は彼らの会話から触れてはいけない話題だと気付いたのか、気をつかって葉瑠の事を“事務所の先輩”と表現してくれた。
さすがに綿矢には反論出来ず、智尋達は黙り込む。
このまま沈黙が続くと対応に困まると心配していた司会者にカンペが出される。
「えっと、PRISON MANSONの葉瑠さんですが急遽こちらにみえたとのことです」
「こんばんは、PRISON MANSONの葉瑠です。途中から失礼します」
司会者の紹介とともに頭をペコリと下げ、葉瑠が久美の横へ座る。その額にはうっすらと汗が浮いており、顔色もあまりよくなかった。
「そういえば今日みえる綿矢さんにも前に言われちゃいましたよね。「あんたは少しは歌を上手くしないと子どもが出来たら大変やで」って。僕、本当に歌うの苦手なんですよね」
「ホンマ、コイツの歌を子守唄にしたらその子はギターしか弾けん子になるわ」
「葉瑠の子が音楽をやるとは限りませんよ」
葉瑠本人の話題により場の雰囲気の悪さが少し減り、司会者もほっとしていた。
智尋達は先程のように発言することもなく、ただ聖達を黙って睨んでいた。その姿はテレビには映ってないないものの、カメラマンをはじめとするスタッフには見えていたのでLUCKSは自らイメージを下げてしまった。しかしそれには気付かない。