誕生―前編―
久しぶりの連載は初めての芸能界ものです。私自身芸能界の詳しい事情はわかりませんがその辺はファンタジーとなるのかもしれません。
コメディータッチでやっていこうと思いますのでお付き合いいただけると嬉しいです。
芸能界もの苦手な方は読むのはご遠慮ください。
右肩にケースにしまったギターをかけ左手には未来をかけた歌を綴った楽譜。目の前に立ちはだかる建物の一室に俺、藤村聖の明日を左右するオーディション会場がある。
オーディション参加者に割り振られた控え室には、たくさんの人であふれていた。大手レーコード会社G主催のこのオーディションは今回は本格的なバンドグループを作る事を目的としていて、アマチュア出身のバンドマン達や俺みたいにギターを片手に一人で来てる奴もいる。オーディションを目前にそれぞれ最後のチューニングに入り、あるグループは軽い音合わせをしていた。
「〜♪」
当然歌を歌ってる奴もいる。
「俺もうかうかしてらんないな…」
ケースからギターを取り出しチューニングを済ませると、軽くストロークしてみる。
俺のギターは今日もいい音を奏でるけどここだけの話、俺はギターは上手くないと思っていた。
自惚れかもしれないけど、歌には多少自信がある。だけどどうもギターは並かそのちょっと下というか、心に響いてこない。
でも相棒もいない俺は自分の力でやるしかなかった。
しばらく最後の確認をしていると、ある音が耳に入った。耳をすまして聞いているとそいつも俺と同じく一人でギターを片手にやってきた奴だとわかったが…
「…歌、へったくそだな」
お世辞にも歌は上手くなかった。というか周りの歌につられて、自分の音が取れていない。
するとそいつは歌うのを諦めたのか、今度はギターのみの演奏をしていた。
正直、耳を疑った。さっきは上手いと言えなかった演奏が、ギターだけになった途端にプロに近い演奏になっている。
「誰かわかんないけど、このギターとだったら夢も叶うかもしれない…」
周りにはまだ色んなバンドがいる中で、俺はその音に聞き魅っていた。
――…‥
出番も無事に終わり、まだ出番を待ってる奴がいる控え室でペットボトルの温いお茶を一口飲みひと息をつく。自分の中ではなかなかの演奏が出来たと思う。他の奴等はというと、俺と同じように満足した表情の奴もいれば、悔しそうに拳を握り締めうつ向いてる奴もいる。
でも俺以外の奴はライバルであって、冷たいようだけど最高の演奏が出来なかったらそれまでという事だ。
なんて偉そうなこといえる立場じゃないけどな。
オーディション最終組らしき奴らが終わりしばらくして、控え室にスーツを着た人が入ってきた。遂に結果発表なのだろうかと、周りはしんとなる。
「あぁ、ごめんねちょっと呼び出しに来ただけなんだ」
結果発表ではないとわかると室内が一斉にに安堵したのがわかる。
「えっと56番の藤村くんと65番の松谷くん、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
俺?なんかしたっけ?ここの建物に来てからというもの、いつもの俺からは考えられない程いい子にしてたと思うんだけど…。
首をかしげながらスーツの人についていった。
――…‥
俺の前を歩く“65番松谷くん”には正直驚いた。驚いたというか、なんというか…。だってこの人男の俺からみても超男前。すらっとした手足に高い身長、整った顔立ちにちょっと洒落た髪型。
「あんたモデルやった方がいいよーっ」
っていってしまいそうなくらい。ちなみに俺はというと、身長そこそこ顔立ちもそこそこ、唯一の自慢は目元のみ。男前には敵いません。
「なぁなぁ、なんでわしらが呼ばれたんだと思う?」
さぁ、なんでじゃろうね…、俺にも覚えはないっす。
「わしと君、今日初めてあったよね?」
うん、間違いないべ。俺の知り合いには“わし”っていう奴おらへん……
「わっ…わし!?」
気がついたら男前松谷くんが俺の方を向いてた。きょとんとした表情もまた素敵ね…なんて見とれてる場合ではない。
「?わしの話聞いてた?」
あ〜、男前なのに自分の事わしっていうんだ…。しかも声と見た目のギャップが…。心で答えてた俺も、思わず変な方言が混ざってしまったではないですか。
「聞いてましたよ。俺もまったく覚えがないです」
「だよね〜。わしもさっぱり」
あっ、この人笑うとまた印象が違う。って俺は恋する女の子かよっ。
――…‥
「失礼します、お二人を連れてきました」
スーツの人に連れられて別室にやって来た俺と男前。スーツの人にならって失礼しますと頭を下げ部屋に入ると、正面にはさっきオーディション会場にいた審査員の方々、向かって右側には窓枠にもたれて腕を組うつ向いているお兄さん。
男前となんだろ?と顔を見合わせる。
「あぁ、志水くんご苦労様」
「いえ、藤村聖くんと松谷葉瑠くんです」
ほう、男前は松谷葉瑠と言うらしい。横に立った男前は、やっぱり背が高い。
「藤村くん、松谷くんオーディションお疲れ様。とりあえずそこに座ってくれ」
俺達は言われた通り正面の椅子に座る。ますます呼ばれた理由がわからない。それに窓枠にいる兄ちゃんは何者だ?
「藤村くん、何で自分がここにいるかわからないって顔してるね」
「はい…」
「賢そうな松谷くんは、ここに入ったら何となく理由はわかったみたいだよ?」
「そうなの?」
「まぁ、何となくですが…」
審査員の真ん中に座るおそらくプロデューサーの人は、書類に一度目を通すと俺達を向き言った。
「おめでとう。君たちはオーディション合格だ」
こうして俺は夢へまた一歩近づいたのだった。
いかかでしたか?まだ誕生編は中途半端ですので、近いうちに更新したいと思います。
窓枠の兄ちゃんもしっかり出していきますので(笑)