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半径2M以内で  作者: ミナ
9/10

電気スタンドのスイッチ

従兄の家に泊まりに行くと言ったら、友達から変だと言われた。

同じ部屋で、同じベッドで寝ると言ったら、中学2年にもなって、そんなことはありえないと言われた。

普通だと思っていた私は、首を傾げた。

「だって、ちかちゃんだよ?」

そう言ったら、友達はいっせいに、私をかわいそうなものを見るような目で見てきた。

なぜか溜息をつきながら私の頭を撫でてくれたけど、それ以上は何も言われなかった。

どうして友達がそんな反応をしたのか、私にはよくわからない。


従兄の周(ちかし)―通称ちかちゃんは、お母さんの双子のお姉さんの子どもで私と同じ年。

お母さんたちは一卵性の双子で、ちかちゃんも私も母親似のせいか、昔から顔も背丈も似たようなものだ。

毎年、大晦日と元旦の一泊二日で行っていて、今年も同じ日程だ。

お泊りセットを準備して、お土産もちゃんと持って、上機嫌で靴を履く私にお母さんの声。

「忘れ物無い?」

「大丈夫だよ」

語尾に音符が付きそうなくらい浮かれた声に、お母さんが苦笑する。

でもだって、1年ぶりのお泊まりは楽しみでしかたないからしょうがない。

「ちかちゃんに会うのが楽しみなのはわかるけど、そんな浮かれて、途中で怪我したりしないでよ?」

「平気だって」

「そうそう。ちかちゃん、カッコよくなってるらしいわよぉ」

「はぁ? 何それ。私と大して変わんなかったよ」

「それは去年の話でしょ。今は変わってるわよ」

「…行ってきます!」

なんとなく、変わっていると言われたのが嫌で、さっと立ち上がって出発した。

友達もお母さんも、変なことばかり言ってくる。

私はただ、毎年恒例のお泊まり会を楽しみにしてるだけなのに。


ちかちゃんの家は、電車を4回も乗り換えて行くほど遠い。

大きな荷物を持って電車に乗るのは多少辛いけれど、改札を出るとちかちゃんがいつも迎えに来てくれているのだ。

「みぃちゃん」

お迎えはちかちゃんだと思っていた私は、ちかちゃんじゃない声で呼ばれて驚いて顔を上げた。

「え、あれ? おばさん?」

「周ちょっと用事で出ちゃって。でも車のほうが楽でしょ」

「あ、うん。ありがとう」

いつもと違う始まりに、少しだけ変な感じがする。

ちかちゃんのお迎えは自転車で大変だけど、お泊まりに来たって感じがして嬉しかった。

車は楽だけれど、なんとなく違和感は拭えない。


「お邪魔しまーす」

ドアを開けて声をかけると、リビングからおじさんが出てきた。

「よく来たね、みぃちゃん」

「こんにちは」

「荷物持って行こうか?」

「自分で持ってくから大丈夫」

お土産をおじさんに手渡してから、ボストンバッグを抱えて2階に上っていく。

階段を上って左の突き当りのドアが、ちかちゃんの部屋だ。

いないとわかってるけど、一応ノックしてドアを開ける。

相変わらずきれいに片付いている部屋を見回して、泊りに来たんだな、と実感する。

荷物を置くと、なんとなくはしゃぎたい気分になって、ベッドにダイブした。

そのままごろりと横向きになると、サイドテーブルに置いてある小さな電気スタンドが目に入る。

毎回毎回泊るたびにする、小さなケンカの原因だ。

私は小さな電気が点いていないと眠れないし、ちかちゃんは暗くないと眠れない。

ぎりぎりまで言い争って、スイッチを入れたり切ったりした後、結局私が泣きついて点けたままにしてもらったりして。

多分今夜もそんな感じだろう、と思うと自然と笑顔になる。

ちかちゃん、早く帰って来ないかな。


そろそろ紅白が始まる、という時間。

おじさんとおばさんとコタツに入って、おでんをつつき始めた時。

玄関のほうから音がして、ちかちゃんが帰ってきたのがわかる。

食べてる途中で行儀が悪いけど、私はコタツからさっと出て玄関まで迎えに行った。

ごそごそと靴を脱いでいるちかちゃんに、そのまま飛びつく。

「ちかちゃん!」

「ぅわ、なんだよー」

「…あれ、ちかちゃん?」

「…なに」

ものすごい違和感を感じて、私はちかちゃんからそろりと離れた。

まず、声が違う。

去年はちょっと掠れ気味だったけどまだ高かった声が、今は普通に低い。

そして、抱きついたときの感じ。

ちかちゃんをじっと見て、目線が同じだと確認する。

でも、ちかちゃんと私の立ち位置を考えると、絶対におかしい。

私は既に部屋に上がっていて、ちかちゃんはまだ玄関に立ったままなのだ。

ぼんやりとちかちゃんを見ている間に、ちかちゃんは靴を脱ぎ切って私と同じ場所に足を乗せる。

去年まで2センチしか違わなかったちかちゃんが、今は見上げる位置にいた。

よくよく見ると、顔つきもちょっとシャープになっていた。

去年までは私とそんなに変わらない顔だったのに、なんか違う。

しかも、「なに」だって。

去年までは、「なぁに」ってかわいく言ってくれてたのに。

「…ちかちゃんじゃない」

「はぁ?」

こんなのちかちゃんじゃない、と咄嗟に思う。

なんだかわけがわからない気持ちになって、私はリビングに舞い戻り、コタツにもぞもぞと座った。

おばさんが、ちょっとだけ面白そうな顔で私を見る。

「周、ずいぶん変わってたでしょ」

「ちかちゃんじゃないよ、あれ」

「ふふっ、ここのところ急に背も伸びたしねぇ」

笑いごとじゃないよ、と心の中で思っていたら、手を洗ってきたらしいちかちゃんがリビングに来た。

空いていた私の左の辺に座って、ただいまとか、いただきますとか言った後、自分でお皿によそい始める。

相変わらずちくわぶを除けるとか、猫舌で冷めるまで気長に待つとか、ようやく知っているちかちゃんが見えて、なぜかひどくほっとした。


交替でお風呂に入っておじさんたちに挨拶して、ちかちゃんの部屋に行くと床にお布団がひいてある。

不思議に思いながらベッドの方を見ると、ちかちゃんは座って本を読んでいた。

「なんで、お布団?」

「穂(みのり)はそっち」

ちかちゃんに呼び捨てされたのは、初めてだった。

どうしてか、心臓がドキドキする。

でも、やっぱり違和感も大きくて、それもお布団を眺めているとだんだん大きくなって、急に反抗したくなった。

「やだ。ベッドがいい」

「あのなぁ」

「一緒じゃ、やなの?」

「……べつに」

たっぷりの間が開いて、しかも何か言いたそうな顔だったけど、それでもちかちゃんは少しずれて私が入る隙間を作ってくれる。

私はお布団を飛び越えて、いそいそとちかちゃんの横に滑り込んだ。

ちかちゃんは本を置いて、リモコンで部屋の照明を消す。

残っている灯りは、件の小さな電気スタンドのものだけだ。

「…狭い」

「文句言うな。俺だって壁が当たるから腕が痛い」

「ちかちゃん、大きくなりすぎだよ」

「急に伸びてきたんだよ。でもその分成長痛きついし」

「今何センチ?」

「夏で172、多分今はあともう3センチくらいいってる」

「てことは、1年で…20センチ!? おかしいよ、それ」

ちなみに私の年間の最高記録は、小5のときの16センチだった。

あのときは、ちかちゃんより若干背が高くなって優越感に浸ったりしたけど、今となっては何て事のないことだ。

しかも、中2にして私の身長は既にほとんど止まり気味だったりする。

この先どんどんちかちゃんだけが大きくなっていくのだと思うと、今日初めてちかちゃんと会った時みたいな、変な気分になった。


いつもはスイッチを切ろうとするちかちゃんが、今日はそうしない。

今年のお泊まりは、いつもと違うことが多すぎて、おかしな気持ちになる。

「ちかちゃん、今日は電気消さないの?」

「…消したくないんだろ」

ちかちゃんが優しいのは昔からだけど、こういうのは無かった。

なんだか、そこかしこがむずむずして嫌な気分になって、思っても無いことを言ってしまった。

「べつに。暗くてももう平気だし」

「そうか? じゃ、消すか」

ちかちゃんが上半身を起こして、ベッドが微かに軋んだ。

その音に、わけもわからず体温が上昇したような気がして、私は焦ってちかちゃんを止めに入った。

「やっぱ消さないで!」

「うわっ」

私がシャツを掴んだせいでちかちゃんはバランスを崩して、スイッチへ伸ばしていた手を私の顔の横につく。

その反動で、私の頭が軽くバウンドした。

「なん、だよ危ねぇ…」

仰向けで横になる私の真上から、ちかちゃんの声が降ってくる。

見上げたちかちゃんは、私の知っているちかちゃんではなくて、どこか怖いと感じた。


「おい、穂。なに泣いてんだよ」

焦ったちかちゃんの声を聞いて、ようやく自分が泣いていることに気づく。

「わかんない。わけわかんないよ、もう」

苛立ちをぶつけるように、覗き込んでくるちかちゃんの肩を押した。

でもちょっと揺れるだけで、全然堪えてないのがわかって、ますます涙が出てくる。

「ちかちゃん、なんで今日お迎え来なかったの?」

「え? あ、悪かったよ。友達に呼ばれてて」

「なんで変わっちゃったの? なんで、お布団ひいたの? なんで…っ」

ちかちゃんの答えを遮って矢継ぎ早に言う私を、ちかちゃんは仕方なさそうに見ていた。

私は自分がした質問が理不尽なものだと頭の隅ではちゃんと理解していたけれど、どうしても言わずにはいられなかった。

どうして、同じままで、ずっと変わらずにいられないのだろう。

本格的に嗚咽を漏らし始めた私に、ちかちゃんは私の体をちかちゃんの方に向かせてからそおっと腕を回してきた。

そんな風にされたのはやっぱり初めてで、驚いたせいか、涙は急に止まった。

「仕方ないだろ。どうしたって、俺は男で、穂は女なんだから」

ちかちゃんの静かなその声を聞いて、泊りに行くと言ったときの友達の反応が思い浮かぶ。

今までずっと一緒だったのに、性別が違うと離れなくてはいけないのか、と思うとそれは嫌だ。

他の誰と離れても、ちかちゃんとは離れたくない。

「でも、ちかちゃんとは、ずっと一緒がいいよ」

「…本気でそう思ってる?」

「どういう意味? 嘘なんてついてないよ」

「それなら、離れなくてもいい方法があるよ」

「どんな?」

「俺の彼女になればいい」

「どうやって?」

ちかちゃんが、少しだけ笑うのがわかって、ちょっと恥ずかしくなる。

小学生のころから、付き合っている子たちは周りにもいたから、彼氏とか彼女とかいう言葉はもちろん知っている。

でも、私は付き合ったことも告白したりされたりしたこともないから、どんなことか本当には知らないのだ。

それにしても笑うなんて、と睨もうと思ったら、そおっと回されていた腕が少しだけ強くなった。

「穂も同じようにすればいい」

「同じ…」

少しだけ考えてから、私もちかちゃんに腕を回してみた。

「こう?」

「ん」

短く答える声が、振動で伝わってくる。

今までにないほどちかちゃんと近い位置にいて、ドキドキしてるのにどうしてか落ち着く。

今日ずっと感じていたはずの違和感や不快感は、いつの間にかきれいさっぱりどこかへ行ってしまっていた。

いつまでも同じではいられないとしても、関係は形を変えながらどこまでも続いていくことができるのだろう。

もう一度友達の反応を思い出したけれど、今度は否定的な感情は生まれなかった。

「ね、ちかちゃん」

「ん?」

「これで彼女になったの? じゃあ、ちかちゃんは彼氏?」

「…そうだよ」

「ふぅん。…あったかいね」

笑ったちかちゃんから、また振動が伝わる。

あったかくて、心地よくて、ちかちゃんにこのままひっついていたら、暗くても眠れそうだった。

「ちかちゃん、電気、消してもいいよ」

「さっき止めたくせに」

「いいから、消してみて」

ちょっとちかちゃんの体重がかかった後、スイッチの音がして、部屋は暗くなった。

一瞬怖くなって、ちかちゃんの背中に回した手にぎゅっと力が入ったけれど、すぐに治まる。

「大丈夫か?」

「うん。ずっとこうしててね」

「…おやすみ」

「おやすみ」

この夜、私は初めて灯りを点けずに眠った。


翌朝、起こしに来たおばさんは、一緒に眠っていた私とちかちゃんを見ると、手加減なしでちかちゃんの頭を叩いた…らしい。

「痛ぇっ」

ちかちゃんはもちろん叩かれて、私は叩いた音とちかちゃんの声で目を覚ます。

ちかちゃんががばっと起き上がったせいで、くっついたままだった私も寝ぼけ眼のまま起き上がる羽目になった。

でもなんだか怒っているらしいおばさんの顔がすごく怖くて、意識は瞬時にはっきりする。

「周!! あんた」

「あー…悪かったよ! けど仕方なかったんだって!!」

何事かを怒鳴りかけたおばさんに、ちかちゃんは声を張り上げて言い訳する。

何のことかわからないでいたら、おばさんは急に心配そうに私を見つめた。

「みぃちゃん、何もされてない?」

「え?」

「してねぇよ! アホか!」

おばさんとちかちゃんが私の何について話しているのか、会話の意味は正直よくわからなかった。

ただ、オフになっているスイッチと、布団の下で繋がったままのちかちゃんの手が、少しだけ大人になったような気分にさせてくれた。


初々しい子を書きたくなりまして、こんな感じに…。

小学校まで仲良かった男友達が、中学に入ったら急に疎遠になること、とかってありましたよね?

そんな、異性だと意識したときの戸惑いとかが伝わったらいいな、と思います。

普通は女の子の方が早熟だと思いますが、周と穂に関しては逆パターンで行ってみました。

周は穂に流されたふりしてうまいこと誘導しましたよね、実はお腹が黒い人なのかもしれません(笑)。

なんか昔を思い出したりして、書きながら楽しめました^^


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