今日の料理は肉料理だった
掲載日:2026/10/16
「私達、違う形で逢えたならきっと……友達になれたでしょうね」
彼女はそう言って刃物を振り下ろした。
やわらかい肉が切断された。
「どうしてこうなっちゃったんだろう?」
薪を火が撫でる。
撫でられた分だけ薪は悲鳴を上げた。
上げ続けた。
「私ね。あなたくらい気が合う人、本当に初めてだったの」
熱せられた鉄の上に油が舞う。
彼女は熱を帯びた目で火と肉を見つめている。
横になったままの僕は彼女をじっと見つめていたが、やがて意を決して尋ねる。
「友達で居たかったのか?」
彼女は笑った。
「まさか。冗談やめてよ」
言葉と共に刃物が再び振り下ろされる。
肉が再び切断された。
僕はようやく身を起こして言う。
「いい加減やめない? この茶番」
「え? ダメ?」
「逆に考えてよ。もし夫が毎日のように『違う形で出会えたなら友達になれたかも』とか言い出したらどうよ?」
「アホだなって思う」
「だろ?」
僕の心底呆れた顔を見て妻はケラケラ笑った。
今日の料理はどうやら肉料理になるようだ。
「ま、友達より夫婦の方が私達には合っているわよね」
そう言って、毎日のように繰り返される妻の、彼女の細やかな繰り返しは今日もまた静かに終わった。




