第1章:1.1 初雪が舞い降りる温泉山荘
一月の台湾の冬は本来それほど冷え込まないはずだが、この突然襲ってきた強烈な寒波が季節の常態を打ち破り、珍しい低温の湿気を伴って北部の山間部へと直撃していた。
窓の外に広がる青々とした山林は、急速に立ち込める白い霧の中にぼんやりとかすみ、気象予報はすでに山間部に暴風雪警報を発令し、不要不急の入山を控えるよう呼びかけていた。
黒いSUVが標高二千メートル近い太平山の駐車場へと静かに滑り込み、タイヤがわずかに濡れたアスファルトを踏みしめてシャリシャリと音を立てる。
運転席に座る悦智誠は両手でハンドルを握り、バックミラーで後部座席の五人の子どもたちを見ながら、少し笑みを浮かべた口調で注意を促した。
「外の気温はもう氷点下を下回っているからな」
「みんな厚手のコートをしっかり着るんだぞ」
「今回の雪は予想以上に激しいからな」
「今夜の山荘はかなり賑やかになりそうだな」
「お父さん」
「天気予報じゃ今夜は山で大雪になるって言ってたし」
「下山する林道ももう規制がかかり始めているみたい」
「これじゃ、しばらくは山荘から出られずに、のんびり温泉に浸かるしかなさそうね」
後部座席の窓際に座る悦清禾がそう優しく言葉を返し、身にまとっていたオフホワイトの温かなセーターの裾を少しだけ引き締めた。
車が減速した拍子に、彼女の肩まで伸びたしなやかな黒髪がふわりと揺れ、その整った彫刻のように端正な素顔をより一層引き立てていた。
彼女の隣に座っていた闕恆遠は、車のドアを押し開きながら、冷たく松の葉の香りが漂う空気を深く吸い込んだ。
闕恆遠の引き締まった顔立ちは、この霧の中でひときわ落ち着いた印象を与えていた。
彼は車からみんなの荷物を手際よく下ろすと、静かなまなざしで周囲の白雪に覆われた日本式の木造建築群を見回した。
伊凝雪は明るいブラウンの長髪をすっきりと高い位置でポニーテールに結び、スノーブーツを履いて車から降りた。
彼女の美しい卵型の顔立ちにはあまり感情の起伏が見られず、手元のタブレットでオフラインの地図を確認しながら、目の前の地理的な状況を冷静に分析していた。
「周辺の携帯基地局はさっきから電波の不安定な状態が出始めているわ」
「もう少しして暴風雪がここを完全に覆い尽くしたら」
「スマホの電波は完全に途絶えるかもしれないわね」
千慕羽は車の反対側から元気よく飛び出し、軽やかなボブヘアを揺らした。
そのわずかにウェーブがかった髪の毛が、冷たい風にふわりと舞う。
彼女の魅力的な瞳には好奇心の光がきらめき、積もった雪を踏み締めながら、思わずぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「やったあ!」
「これぞ山奥の冒険の王道展開じゃない!」
「もしかしたら、このあと何か神秘的な古い伝説にでも出会えたりして!」
玥映嵐はマイペースにダークカラーのコートを整え、優雅なロングのウェーブヘアを両肩に垂らしながら、年齢に似合わない大人の雰囲気を醸し出していた。
玥映嵐の端正で美しい横顔が、雪の照り返しで少し冷ややかな印象を帯びる。
「慕羽」
「こんな天気じゃ、道に迷わないだけでも十分なのに」
「変な伝説なんて口に出さないの」
悦智誠は元気いっぱいの子供たちを見て朗らかに笑い、みんなに声をかけて山荘のロビーへと案内し、チェックインの手続きを済ませた。
松風閣と名付けられたその温泉山荘は、山々に囲まれた奥深い場所にひっそりと佇んでおり、木造の回廊や漂ってくる硫黄の香りが、世間から切り離されたような素朴さを漂わせている。
今回の旅行の計画は、五つの家庭の間で長年培われてきた暗黙の了解だった。
幼い頃からの大親友である闕振德、悦智誠、伊正德、千廣維、玥紹勳の五人は、それぞれ仕事で忙しい日々を送りながらも、毎年交代で子どもたちを連れて集まることにしていた。
今年はちょうど悦智誠が引率を担当する番だったが、他の四人の父親たちが急な仕事でどうしても都合がつかず、子どもたち五人も幼い頃から実のきょうこのように育って互いをよく知り尽くしているため、親たちは安心して悦智誠に五人の旅行を任せたのだった。
ロビーのフロントスタッフから重みのある金属製のカードキーが手渡されたのと同時に、窓の外の吹雪が一段と激しさを増した。
狂おしい風が大粒の雪を巻き上げ、厚いガラス窓に激しく叩きつけて、不安を煽るようなうなり声を立てていた。
夜のとばりが凄まじい勢いで山全体を飲み込み、まばらだった観光客たちもそれぞれの部屋へと引き揚げていった。
山荘全体が、すっかり風雪に閉じ込められたかのような静寂の中に包み込まれていった。
夕食時、五人と引率の悦智誠は温かい和風の掘りごたつを囲み、湯気の立ち上る山菜料理に舌鼓を打っていた。
レストラン内には彼らのテーブルのほかに、互いに面識のない四人の宿泊客が座っていた。
隅の席には暗い表情をした中年男が一人でやけ酒をあおり、反対側では慌てた様子で小声の言い争いを続ける若い男女が座っている。
そしてもう一人は、分厚い黒縁眼鏡をかけた、厳格な面持ちの中年男性だった。
その眼鏡の中年男性は骨董品に相当詳しいらしく、席に着いてからもしきりに手元の古い懐中時計を磨いていた。
その集中して品定めするようなまなざしから、彼がそうした古い品々に並々ならぬこだわりと知識を持っていることが一目で伺えた。
これら一癖も二癖もある人々が、吹雪の夜に同じ屋根の下に集まったことで、空気には得体の知れない異様な緊張感と水面下のざわめきが漂っていた。
悦智誠はテーブルの上に並ぶ湯気を立てたタケノコ汁や山菜の炒め物を見渡し、笑顔でみんなに箸をつけるよう促した。
「お前たち、遠慮するなよ」
「冷めないうちに早く食べろ」
「ここの山の上は平地よりずっと気温が低いんだから」
「しっかり食べておかないと、このあと温泉に入る体力がなくなっちまうぞ」
千慕羽は待ちきれない様子で椎茸の天ぷらを箸でつまみ、口をもぐもぐさせながら声を弾ませた。
「わあ」
「この椎茸、すごくいい匂いがする!」
「悦叔父さん」
「あのとき無理してでもついてきて本当によかったよ」
「そうじゃなかったら、今頃塾で模試の過去問を解きまくってたところだもん」
悦清禾は茶碗によそった白ご飯を隣の千慕羽へと差し出し、やれやれといった口調で静かに言葉を返した。
「慕羽」
「遊びに来たのにずっと塾の話しちゃダメでしょ」
「だからテストのたびにみんなに遅れをとるんだから」
伊凝雪は箸を器用に動かして一品上品につまむと、窓の外の漆黒の闇に視線を走らせ、さらりと会話に加わった。
「今日の気温の低下は異常だわ」
「さっきフロントの方から、林道は完全に通行止めになったって連絡が入ったの」
「私たちはこれから数日間、この山荘にしっかりと留まって」
「どこにも出かけられないわね」
玥映嵐は温かいスープの椀を持ち上げ、ふうっと軽く息を吹きかけてから、落ち着いた様子で口を開いた。
「山に閉じ込められたって、外で渋滞に巻き込まれるよりはずっとましよ」
「少なくともここには温泉があるんだし」
「そうだよね、恆遠?」
闕恆遠はうなずき、茶碗の中の肉をそっと脇によけた。
「ああ」
「安全が一番だ」
「それに悦叔父さんが選んでくれた場所ならいつも安心できる」
悦智誠は子どもたちの言い合いを聞きながら温かい笑みを浮かべ、その瞳には深い愛情があふれていた。
「ほら」
「お前たちは小さい頃から出かけるといつも喧嘩ばかりして」
「さっさとご飯を食べなさい」
「食べ終わったら部屋に戻ってゆっくり休むんだぞ」
闕恆遠は湯呑みを手に取って一口お茶をすすると、さりげない視線でレストランの隅にいるそれぞれ事情を抱えた客たちを一瞥し、それから窓の外へと目を向けた。
夜の闇と暴風雪にすっかり飲み込まれた山林は低い咆哮を上げ続けており、その目に見えない重圧感が食卓全体の空気を妙に静まり返らせ、窒息しそうなほどの緊迫感がひそやかに漂い始めていた。
夕食はどことなく不気味な重苦しさの中で終わり、五人はそれぞれの部屋の鍵を受け取り、二階の客室エリアへと戻った。
外の吹雪があまりにも激しいため、部屋の中では暖房がかすかな唸りを上げて稼働していた。
千慕羽はトランプの束を手に取ると、闕恆遠と悦智誠の部屋の隣にある部屋のドアを勢いよく押し開き、ニコニコしながら入っていった。
「ねえ」
「外であんなに風が吹き荒れてるんだからさ」
「いっそみんなでこの広い部屋に集まって、大富豪でもしようよ!」
伊凝雪もあとに続いて部屋に入り、手慣れた様子でドアを閉めると、呆れたようなトーンで声を漏らした。
「慕羽」
「あんたの大騒ぎする癖は相変わらずね」
「まあ、この天気じゃ外に出ることもできないし」
「トランプで時間つぶしするのも悪くないか」
悦清禾は微笑みながら余分な椅子を引っ張ってきて、オフホワイトの袖をきゅっとまくり上げた。
「じゃあ、私がカードを配るね」
「今日は大富豪にする? それとも神経衰弱?」
玥映嵐はベッドの端に気だるげに腰を下ろし、優雅なウェーブヘアを背中へと払いながら、さらりと言った。
「スピードにしましょうよ」
「その方がスリルあるし」
「誰の反射神経が一番鈍いか試せるわ」
闕恆遠はやれやれといった様子で絨毯の上にあぐらをかき、幼い頃からいつもこうして騒ぎ合っている幼馴染たちを見渡した。
「ほら」
「お前たち、部屋をめちゃくちゃにするなよ」
「悦叔父さんがすぐ隣で休んでるんだから」
「あまりうるさくすると怒られるぞ」
五人は掘りごたつを囲んでトランプゲームを始め、机を叩く軽快な音や途切れない笑い声が、外の不安を煽る風雪の音を一時的にかき消していた。
トランプの勝負は千慕羽の悲鳴のような泣き言とともに終わり、何度も続いた神経衰弱で一番負けが込んだ千慕羽は、すっかり唇をとがらせながら罰ゲームを受け入れていた。
悦清禾は微笑みながら散らばったトランプを片付け、壁にかけられた時計に目をやった。
「もうすぐ十一時だね」
「みんな早めに部屋に戻って休もう」
「明日は朝早く起きて雪景色を見に行かなくちゃいけないし」
伊凝雪は軽く伸びをして、乱れた長髪をもう一度結び直すと、一番に立ち上がった。
「それじゃ、みんなまた明日」
玥映嵐もそれに続いて立ち上がり、手際よく服の裾を整えた。
「おやすみ」
五人はそれぞれの部屋へと戻っていった。
闕恆遠は簡単に身支度をすませて木のベッドに潜り込み、外の風雪の音に木造建築の微かなきしみが混ざる中、心地よい疲労感とともに深い眠りへと落ちていった。
時は静かに流れ、時計の針は深夜十二時を指し示していた。
山荘全体が、唸りを上げる風雪の音を除いて、完全な死寂に包まれていた。
その時、この世のものとは思えない凄まじい悲鳴が夜空を切り裂き、眠りに落ちていた静寂を無惨に引き裂いた。
その声は極限の恐怖と絶望に満ちており、狭い木造の廊下に反響して、背筋が凍るような悪寒を走らせた。
闕恆遠は悲鳴が上がったその瞬間に目を覚まし、ベッドから飛び降りると、パジャマを着替える暇さえ惜しんでドアを力任せに開き、外へと飛び出した。
ほぼ同時刻、伊凝雪、悅清禾、千慕羽、玥映嵐の四人もそれぞれの部屋から飛び出してきて、五人は互いに顔を見合わせ、その瞳の奥に計り知れない動揺と不安を宿していた。
隣室にいた悦智誠も足早に姿を現し、険しい表情で廊下の奥の様子に耳を澄ませながら、低い声で告げた。
「今の悲鳴は廊下の突き当たりあたりから聞こえたぞ」
「みんな俺の後ろをついてこい」
「絶対に離れるなよ」
一行は早足で廊下を進みながら周囲を探ったが、空気の中にはかすかに鉄の生臭さが漂い始めていた。
やがて廊下の最も奥にある三号貴賓室の前にたどり着いた時、そこに広がっていた光景を見て、全員の息が思わず止まった。
重厚な木の扉は内側からしっかりと施錠されており、そのドアの隙間から、温かい鮮血がじわりじわりと流れ出していた。




